『テープ薬の乱用について』
こども救急箱(109)
風邪をひいたお子さんの診療のなかで、保護者の方から『あの咳止めのテープをください』
といわれることがあります。このテープ(貼付薬)、ホクナリンテープやツロブテロールテープと
いう名前で処方されています。薬の効果は気管支拡張です。そのため、気管支が狭くなる病気
である気管支喘息や急性気管支炎の時に使われます。お薬の内服が難しいお子さんでもスト
レスなく使用できる大変よいお薬です。しかし、冒頭にあるように『咳止めのテープ』といわれる
と違和感をかんじます。たしかに気管支喘息発作で咳がやまないお子さんにこのテープ薬を使
用すると、狭くなっていた気管支が拡張し、咳や喘鳴が軽減します。この経過が『咳止めのテー
プ』という言葉につながるのかもしれません。ただし、咳がでる病気には気管支喘息や気管支炎
以外にも多くの病気があります。気管支が狭くなっていない、一般的な鼻かぜによる咳や副鼻腔
炎による咳などには効果はありません。
また、気管支喘息発作でテープ薬の使用によって症状が軽快したとしても、それは一時的に無
理やり狭くなった気管支を広げているからであり、狭くなった気管支の治療ができているわけでは
ありません。気管支喘息のあるお子さんが、夜中に咳き込んで眠れないときなどその場でペタッと
はるだけで症状が和らぐ便利なテープ薬ですが、実はテープ薬は貼ってから12時間後に血液中
のピークが来るようにつくられており、医学的には即効性はありません。朝の発作のために夜に貼
る目的のお薬です。
はっても効果がないときは咳の原因が喘息発作以外のものかもしれませんし、効果があったと
しても発作の程度次第ではほかの治療薬が必要となるかもしれません。自己判断で漫然と使用する
のは避けましょう。
このように、テープ薬は夜間や休日にとりあえず使用したり、飲めないお子さんに使用するのに
便利ではありますが、安易な使用が『乱用』とならないために正しい理解のもと適切に使うことが大事
です。
認定NPO法人こども医療ネットワーク会員
立元千帆(鹿児島市医師会病院小児科)
平成23年3月28日南日本新聞掲載