「三歳児神話」
こども救急箱(121)
「三歳児神話」という言葉をご存じでしょうか。「子どもは3歳になるまで母親が家庭で育てるべきである」という考え方です。神話と表現されるように、この考え方は問題視されています。「子どもが小さいうちは母親は子育てに専念するのが当然」とする考えは、母親である女性にとって多くの義務感や負担感を生みます。三歳児神話や母性愛は、かつて高度経済成長期に盛んに宣伝されたのです。
子どもの成長と発達にとって、3歳までの時期は非常に大切であることは多くの実証があります。最近は発達障害などのリスクがある子どもたちも増えているので、親だけでなく家族、身内、そして社会で丁寧に育まれることが求められています。「母親が四六時中育児に専念する」のは無理があるのです。
1998年版の厚生白書では、三歳児神話には少なくとも合理的な根拠宇は認められないとしています。育児ストレス、密室的な子育てによる弊害が注目されたことと関係するのでしょう。
仕事をする母親に比べて、専業主婦の母親の方が育児不安は大きいという報告もあり、母親の就労による子どもへの発達への影響はよく分かっていません。働く母親が増え、子どもの早期就園化が進む一方、仕事と生活のバランスは偏ったままで、母親の負担が一向に変わらないことも問題といえます。
乳幼児の子どもは、多くの大人の手に支えられ発達します。その役割は父親も担います。行く仕事を両立しやすくするために、育児休暇や職場環境を整えていくことが課題です。一人一人の状況や発達に即したきめ細やかな支援ができる社会を、皆で協力してつくっていけたらと思います。
認定NPO法人こども医療ネットワーク会員
塗木雄一朗(国立病院機構南九州病院小児科)
平成23年11月7日 南日本新聞掲載