離乳は急がないで
こども救急(13)
薬に副作用があるように、食べ物にも副作用があります。薬の副作用は服用した場合しか関係ありませんが、
食べ物の場合はすべての人が毎日口にするものですし、しかも消化の問題もからんでくるのでよりやっかいです。
動物は、異物である食べ物をそのまま利用することができません。食べ物は消化作用を受けて初めて栄養にな
りえます。消化には、口腔でのそしゃく、胃や腸のぜん動などの運動機能の他に、消化酵素を含んだ胃液や腸液、
さらに腸内細菌の助けも必要です。どれ一つ欠けても消化はうまくゆきません。年齢、性別、体力や体調を考慮
しない食べ方も不消化を起こします。食べ物は消化が不完全な時や過剰に摂取された時には、人体に危害(副作用)
を加えることがあります。蛋白質の多い食品は免疫応答で命に関わる症状を起こすことがあり、特に注意が必要です。
赤ちゃんは消化能力が未熟なので、より注意深い対応が必要です。赤ちゃんにとって唯一安全な食べ物は母乳です。
粉乳(ミルク)は母乳が出ない場合の代用品と考えるべきものです。離乳(準備)食では、月齢が低い赤ちゃんほど有害
事象が起こりやすいと考えられます。
現在、日本では、「3〜4か月に白湯・果汁・スープを与え、5か月から離乳開始」が一般的です。この離乳法は、
戦後日本が貧困であった時代に当時の欧米を参考にした方法です。日本伝統の「生後7か月での離乳開始」が、
2か月も「前倒し」されました。赤ちゃんの栄養失調が社会問題化していた当時では仕方のない選択でした。
その後の研究で、早すぎる離乳には問題点が多いことが明らかになりました。WHO(世界保健機構)やアメリカ
小児科学会は、生後6か月まで母乳(ミルク)だけで育てるよう勧告を出しました。6か月未満では、果汁・スープ
だけでなく白湯さえも禁じています。
安全な離乳のコツは、赤ちゃんの成長をじっくり「待つ」こと。日本の伝統も最新の科学も一致してそう考えて
います。先を急がない「待ち」の姿勢は、子育て・教育の大原則でもあります。
NPO法人こども医療ネットワーク会員
中園 伸一(枕崎こどもクリニック院長)
平成18年10月23日 南日本新聞掲載