ボウルヴィ理論の誤り

−誰もが母親代わり可能−

 

こども救急箱(131)

子どもは親の所有物ではないとか、子育ては母親だけが担うものではない、とよく言われますし、
政府も子どもは社会で育てるものだとの認識のもとに政策立案をしようとしています。そうは言い
ながら、鹿児島県でも乳幼児虐待や母親と子どもの悲しい事件が報道されています。日本の悪い
伝統文化の一面だと考えられます。

2次世界大戦直後に戦災孤児を対象とした研究結果として「ボウルヴィの理論」が提唱され、
当時の男性優位の社会情勢にのって世界中に広がりました。

この理論は愛着の形成という観点から母親を特別視するもので、子どもは母親が育児に専念し
なければよい子に育たないという解釈でした。男性社会に好都合なこの理論はその後の研究で
否定されましたが、ボウルヴィ理論が正しくないことは広まりませんでした。現在でもこの理論を信
じていることに対して、女性の社会進出を妨げる「ボウルヴィの亡霊」だと表現されます。
 昨年117日に掲載されたあんしん救急箱「三歳児神話」で示されたように、子どもにとって重
要なのは周囲の大人の愛情であり、かかわりです。血のつながりの有無にかかわらず、周囲の大
人の誰もがボウルヴィ理論の母親の代わりをできることが証明されています。育てることについて
は、母親だけが特別な存在ではないのです。
 予防接種や検診だけみてもわかるように、時代とともに一人一人の子どもにかける手間は確実
に増えています。大変な育児全般について周囲の大人が分担することで、母親の負担を軽減し、
子どもたちの健全な成長と発達を促進することができます。
 母親に押し付けない、母親を孤立させない、それが成熟した社会の基本です。


認定NPO法人こども医療ネットワーク理事長
河野 嘉文(鹿児島大学病院小児科)