説明上手

−心配の理由、診断の鍵に−

 

こども救急箱(137)

「主訴」という用語があります。患者さんが何を問題にして病院を受診したかを一言で
示すための医療用語ですが、理由を的確に説明できないこともあると思います。特に子ど
もはうまく言葉にできないため、保護者が代弁しますが、説明は案外難しいようです。
 たとえば発熱という主訴は多いのですが、子どもが熱を出さずに大きくなることはあり
ません。知恵熱という言葉があるように、子どもは発熱を経験しながら免疫力を養い成長
します。「熱があります」と言われたら、「熱は出るのが普通ですから、熱で何が困ってい
るのですか?」と聞きたくなるのが小児科医です。

熱は病原体をやっつけるための自己防衛反応です。また、下痢や嘔吐は消化すべきでな
い食物を早く外部に出すための反応です。発熱や嘔吐、下痢などの防衛反応を無理に抑え
るのが正しいとも言い切れません。抱える問題をどう解決できるか一緒に考えることにな
りますが、小児科医も苦慮します。

もちろん、熱があること自体が心配というのもあります。心配の理由がわかれば解決策
は立てやすくなります。「こんな高い熱だとひきつけを起こさないかと心配で来ました」と
いう主訴は、医師や看護師を助けてくれます。
 以前は、祖父母がお孫さんと来院し、「熱があるからとにかく連れて行って、と母親に頼
まれた」ということがよくありました。当然、前日からの様子は全く説明できません。「医
者だったらわかるだろう」と思うかもしれませんが、小児科医が得られる情報は保護者の
説明が半分、本人の診察が半分。それらを総合して判断するのです。
 説明上手という技は、診断・治療という医療者と患者さんとの共同作業を効率的に進め
る原動力だと思います。

認定NPO法人こども医療ネットワーク理事長
河野 嘉文