あるもの探し

 

                                              こども救急箱(160

 

 運動会の季節です。すごく楽しみにしている運動能力の高い子どもがいれば、一方では運

動が苦手で嫌だなあと思っている子どもたちもいます。

 特に「かけっこ」については全員に強制するのがいいのかどうか、教育現場では以前から議

論のテーマになってきたと思います。都会では走り方を教える家庭教師も大はやりだそうで

す。

 競争させるべきかどうかは、それぞれの考えでやるべきだとは思いますが、医学的には

個々の特性、能力の違いを知るいい機会だと感じます。

 私たちは男か女かで区別されながら育つのですが、同性でも個人の能力は多種多様です。

運動会では走ることが得意な子も苦手な子もわかりますし、学校の試験では算数が得意な子、

社会が得意な子、みんな特性が違うことを理解できます。

 人はそれぞれ違う特性を持って社会を構成していることを認識するのは、子どもの発達の

重要な過程です。個性をよい方向に伸ばすことが理想ですが、子どもが健康であれば「ない

ものねだり」をするのが親心でしょう。

 難病で入院生活を強いられる子どもたちは健康に毎日学校へ行くことに憧れます。保護者

も学校へ行けたら成績はどうでもいい、好きなことをやらせたいと考えます。

 学校で運動してはいけないと小児科医から言われている子は、ちょっとでもみんなと一緒に

運動会に参加したいと思っているのです。

 日頃から難病の子どもを見ている小児科医としては、遅くてもいいのでかけっこができること

に感謝してほしいし、成績が悪くても通学できることのありがたさを知ってほしいと思います。

 保護者の皆さんも「ないものねだり」ではなく、その子に備わった「あるもの探し」で応援して

あげられるといいですね。

 

認定NPO法人こども医療ネットワーク理事長

 河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)