しつけ
こども救急箱(174)
「しつけのつもりでやった」という親の弁明は、虐待で逮捕されたときに報道される常套句(じ
ょうとうく)です。暴力で子どもに親の言うことを聞かせようとする虐待例を見ていると、子育て
中の親が「しつけとは子どもが親の都合に合わせて振る舞うようにすること」という意味に勘
違いしている気がします。ペットが命令に従うのと同じように考えているのかもしれません。
国語辞典でしつけを引くと、「子どもなどに礼儀作法を教えて身につけさせること」と書かれ
ています。礼儀作法を身につけることは、「躾(しつけ)」の字の通り、身を美しくすることになり
ます。自然と心の美しさも伴うようになると思います。
鹿児島はその点で先進地だと思います。小学生が横断歩道を渡り終えて、止まってくれた
運転手さんに自然な礼をする光景には感動しました。郷中教育という言葉もありますね。
子育てで幼児期にまず教えなければならないことは何でしょうか。最も重要なことは何が自
分にとって危険か、次に社会生活では自分の思い通りにいかないことがたくさんある、この2
点を教えることかもしれません。
子は親の背中を見て育つと言われるように、親の価値観をまねるのが子どもだと思います。
子どもが自分と違う価値観を主張したとき、素直に耳を傾けることは親にとって非常に難しく、
子育ての難しさを感じるときだと思います。故事にある「子を持って知る親の恩」ですね。
幼稚園や小学校に進み、集団生活に慣れてくると、社会では多種多様の考え方があり、人
の数だけの個性があり、お互いに尊重し合うことを学んでいきます。子育て論に正解はありま
せんが、「しつけ」は親の言いなりにさせることではないことは確かですね。
認定NPO法人こども医療ネットワーク理事長
河野 嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)