カンピロバクター腸炎
こども救急箱(179)
食中毒が多くなる季節になってきました。小児科の外来では、おなかをおさえて、とてもつら
そうな顔で受診する細菌性下痢症の子どもをみます。ウイルスでおこる嘔吐(おうと)下痢症
とは、腹痛がとても強い点で異なります。時には血便もみられます。
私たち小児科医は、診察のときにまず質問します。「数日前に鶏刺(とりさ)しを食べません
でしたか」。鹿児島ではこのようなケースで多くの保護者が「そういえば食べさせました」と答
えます。
鶏刺しを食べるのは南九州の食文化です。しかし、鶏刺しにはカンピロバクターという食中
毒を起こす細菌がついていることがあります。鶏の腸の中にいるので、処理の過程でどうして
も汚染するのでしょう。最初からついているので、新鮮な鶏刺しでも発症することがあります。
診察の後、原因を調べるために便培養検査を行います。結果がわかるまで3日ぐらいかか
るため、抗生物質を処方して経過をみることがありますが、多くのケースでカンピロバクター
が検出されます。症状は数日でおさまることが多いです。
私も鶏刺しが好きでよく食べますが、腸炎になったことはありません。鹿児島県の大人の多
くはすでに免疫(抵抗力)ができているのかもしれません。
でも、鶏刺しを初めて食べる子どもや慣れていない大人は発症することがありますので、安
易に食べさせるのは控えたいものです。潜伏期間は1〜5日です。食べた後に腹痛が強いと
きは早めに医療機関を受診してください。
生卵にいるサルモネラ菌や牛肉にいる腸管出血性大腸菌にも注意しましょう。カンピロバク
ターも含めて十分に加熱して食べれば安全です。
認定NPO法人こども医療ネットワーク会員
西 順一郎(鹿児島大学医歯学総合研究科微生物学分野)