医療・育児の相談
−親と医師が一緒に−
こども救急箱(185)
小児科医の間で知られる言葉に、「困った親は困っている親である」というのがあります。
育児や病気の対応について、小児科医として家族に助言・指導をするのですが、それには従わ
ず無視していると思われる親御さんが時々います。そのような場合に、医師の助言を聞き入れ
ない親御さんを「困ったなあ」と考えてはいけない、と戒めるための言葉です。そして「自分のア
ドバイスが適切ではなかったのではないか」と反省を促す言葉なのです。
一般的なアドバイスがすべての患者さんや保護者に、適切な内容になるとは限りません。小児
科医は親御さんから相談を受けて、その子どもの家族環境を知り、病状を診断します。それぞ
れに合ったアドバイスをするべきですが、短い診療時間にすべての情報が把握できるわけでは
ありませんから、一般的な話になることも多いのです。
そのため「うちの場合は、そのアドバイスは当てはまらないなあ」とか「そんなことはもうとっくに
やってみたけど、うまくいかなかった」と思う親御さんは多いのです。
そんなときに遠慮して何も言わないより、「なぜうちには当てはまらないと思うのか」「試したとき
に、どのようにうまくいかなかったのか」について、適切な情報をいただく方が助かります。
最初は一般的な助言以上のことはできません。新たな情報が得られれば、それに応じてまた助
言・指導が可能となります。医療者と患者という対面の関係ではなく、医師と親御さんと一緒に
取り組んで、子どもさんの問題を解決できる状況になることが理想です。
小児科医の一人として、それぞれの患者さんの診療時間をもっと長く取れる医療制度であれば
いいなあと感じています。
認定NPO法人こども医療ネットワーク会員
野村 裕一(鹿児島大学病院小児診療センター)