育児書
−頼りすぎず参考程度に−
こども救急箱(188)
小児科医をしていますと育児について意見を求められる機会が多々ありますが、どのような
回答をするべきか悩みます。もちろん、健康面での相談が主ですが、すべての子どもに共通
して適用できる回答などあるはずがないと思っています。講演会では「どうでもいいんです」と
は言えないので、医療機関への受診の仕方をはじめ、その時々に個人的に強調したいことを
話します。
本屋には、新しいお母さんを読者と想定し、育児書あるいは育児論に関する書籍があふれ
ています。育児は、心理学、教育学、あるいは医学などの学問で語ることができるほど単純な
ものではないと思います。子どもは育児書に書いてあるように接すれば、思うように育つでし
ょうか。また、育児書で勧めていることをすべて実行しなければ、良い子に育たないものでしょ
うか。
小児科医の先達は、育児は栽培と似ていると述べています。きれいな花の色や形を期待し
ながら、時間をかけ、雑草を取り添え木で守りながら育てます。日光も水も肥料も必要ですが、
過度に与えると枯れてしまうことも。毎年の気候によって手をかける時期や方法は少しずつ変
わります。育児とは、料理とともに塩梅(あんばい)という表現が似合う繊細かつ大胆な作業
のようですね。
一方で、古来より「親は無くとも子は育つ」といわれています。健康であれば必ず大きくなっ
て巣立っていきます。たくさんのお金があっても、「売り家と唐様で書く三代目」となります。
育ち方は千差万別で、一人一人違う個性を持った人の集団が社会です。本に書いてあるこ
とを参考にすることは大切ですが、すべてを守る必要はありません。欲張らず、まずは家族が
増えたことで満足しましょうか。
認定NPO法人こども医療ネットワーク理事長
河野 嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)