学校検尿
‐腎炎早期発見、治療へ−
こども救急箱(197)
毎年この時期には学校で尿検査を行います。この学校検尿は何のためにするのでしょう
か。
尿は腎臓で造られ、尿管から膀胱(ぼうこう)を通って体外に排泄されます。腎盂(じんう)腎
炎のような細菌感染症では、高熱が出て、尿管結石症では激痛を伴うこともあります。しかし、
腎臓そのものは異常が起きていても症状が出にくい臓器の一つです。
無症状で、ゆっくり腎臓の機能が悪くなる慢性腎炎は、気づかれにくく、尿として体内の老廃
物を排せつする機能が低下して、全身がむくみ疲れやすくなります。このような症状がはっき
りしてから病院を受診しても、病気が完成して手の施しようがないことがほとんどです。最悪
の場合には、透析療法や腎移植が必要になります。
慢性腎炎を無症状の段階で見つけて適切な治療を開始すると、腎臓の機能低下を止める
ことができる可能性があります。たとえ治せない病気であっても、その進行を遅らせるための
工夫はできます。そのために、子どもたち全員に学校で尿検査を実施し、早期に異常を見つ
けるための努力をしているのです。
学校検尿は1974年に学校保健法で実施が定められ、40年以上日本の子どものために続
けられています。その意義は世界に向けても報告され、20歳未満で末期腎不全に至った人
の割合を調べたデータでは、学校検尿が行われていないアメリカ合衆国に比べ、約4分の1と
いう少なさでした。
一度失われた腎臓の機能を取り戻すことは困難です。「症状がないから大丈夫」と自己判
断はせず、学校検尿で異常を指摘されたら病院での精密検診を受けましょう。
なお、学校検尿は慢性腎炎だけではなく、手術が必要な尿路の異常や小児の糖尿病の早
期発見にも役立っています。
認定NPO法人こども医療ネットワーク会員
宮園 明典(鹿児島大学病院小児科)