かぜと抗生物質
こども救急箱(2)
かぜは,鼻汁や鼻づまりがおもな症状で,熱を伴うこともあります。小児科の外来で,お母さんから
「抗生物質をもらえないのですか」とご質問をいただきます。
感染症の病原体は,おもに細菌とウイルスに分けられます。細菌は1mmの千分の1ほどの大きさで,
栄養があれば自分の力で増殖できます。ウイルスは細菌よりずっと小さく,ヒトの細胞の中で,細胞のし
くみを利用して増殖します。増殖のしくみの違いで、抗生物質は細菌には効きますが,ウイルスには全く
効果がありません。最近では、抗生物質を「抗菌薬」と呼ぶことになりました。
かぜはライノウイルスなどのウイルスが鼻やのどに感染することで起こります。かぜ以外にも,咽頭炎,気
管支炎など多くの気道感染症は,ウイルスによって起こります。ウイルス感染症に最初から抗生物質を使って
も病状を改善することはありません。かぜだからと言って、急いで抗生物質(抗菌薬)をもらいに行く必要は
ないわけです。
「肺炎にならないように抗生物質をください」という声もありますが,早めに抗生物質を飲んでも重症の細
菌感染症を予防できるとは限りません。多くの子どもたちは肺炎や髄膜炎の原因となる病原菌を,鼻の奥に
持っています。不必要な抗生物質を使うと,細菌はますます抗生物質に強くなり,薬が効かない耐性菌だけ
が生き残ることになります。
重い細菌感染症が,このような薬剤耐性菌によって起こると,治療が大変難しくなります。もちろん抗生物
質が必要な場合もあります。5歳以上の子どもによくみられる溶レン菌による咽頭炎は,最初から抗生物質が
必要であり,診察と検査でウイルス性咽頭炎と区別できます。またかぜのあと発熱が長く続いたり,せきがひどく
なったり,細菌感染の合併が疑われるときは,適切な抗生物質が必要です。
小児科医は,症状・診察・検査から,抗生物質が必要かどうかを考えてくすりを処方しています。ご心配な
際は,担当の医師に遠慮なくお尋ねください。
NPO法人こども医療ネットワーク会員
西 順一郎 (鹿児島大学病院)
南日本新聞 2006年5月1日掲載