母子間コミュニケーション
―生物の本能でつながる―
こども救急箱(209)
英国や北欧で不妊治療の一環としてヒトの子宮移植が研究的に行われ、わが国でも霊長
類での研究が進んでいます。子宮が原因で妊娠・出産できない人に、第三者の子宮を移植し、
体外受精で作成した胚(受精卵が少し成熟したもの)を移植した子宮に戻して出産する方法
です。臓器移植と人工受精をセットにした治療です。
養子縁組や代理出産がされてきた欧州で、このような研究がされる背景には、女性の「自
分で産みたい」という強い希望に応えようとする研究者の姿勢が感じられます。世界的な論議
はこれからでしょう。自分で産みたいという希望は、生物の本能のようなものかもしれません。
最近進んできた神経機能学や脳科学の観点から、胎児・新生児と母親とのコミュニケーショ
ンに関する研究報告があります。それによると、母子間での五感によるコミュニケーションが
大事です。表情を見て、声の調子を聞き、匂いを嗅ぎ、舌で触れ、肌で感じ、子どもは育ちま
す。
昔から胎教が重要と言われてきたように、聞かせる音楽によって胎児の動きは変わり、最
新の画像診断機器で表情の変化も観察できるようです。
妊娠中に夫婦げんかをすると、赤ちゃんの表情が曇るそうです。生まれたばかりの赤ちゃん
を母親のおなかに乗せると、母乳の匂いに誘導されて乳首に向かいはって行くことも観察さ
れています。そして、赤ちゃんに乳首を吸われることで、お母さんの脳は女性脳から母性脳へ
スイッチが切り替わるとされています。
産まれた赤ちゃんとのコミュニケーションで、女性は母親の脳に切り替わるのですから、母
子間のコミュニケーションも、種を保存する生物の本能に従っているのかもしれません。
こども医療ネットワーク理事長
河野 嘉文
(鹿児島大学病院小児医療センター)