育児過誤
―背景にも目を向けて―
こども救急箱(225)
育児過誤にはいろいろな種類がありますが、赤ちゃんの命にかかわる事例の一つに、粉ミ
ルク(育児用調整粉乳)の作り方の間違いがあります。
缶入りのミルクであれば、付属の専用スプーンで正確に量を計測し、指示に従って湯を加え
て最終的な量を調整する必要があります。例えばスプーン1杯すりきりで2・6cであれば、で
きあがりを20ミリリットルになるように湯を加えるという指示が書かれています。これはミルク
の最終濃度が13%になるように作ってほしいという意味です。
もちろん、きっちり13%でなくても大丈夫ですが、極端に薄くすることや、濃くしすぎることは
赤ちゃんの健康被害につながります。間違った調整をしたミルクを飲ませ続け、体重増加不
良、意識障害、けいれんなどで入院になったことはよく報告されています。
育児過誤と言いながら、多くの場合は単純な間違いというより、何らかの理由があって記載
通りにしていないこともあります。少しでもミルク代を節約したくて薄くしていることもあるので
す。
外来受診や入院治療を機に、病気の観点からだけでなく、社会的原因の可能性も含めて丁
寧に調べる姿勢が重要になります。小児科が「子どもの総合診療科」と称されるのは病気だ
けを見ているのではないからです。
その他の育児過誤の例としては、赤ちゃんは絶対母乳で育てなければならないと考える誤
った母乳信仰や、アレルギー対策のための極端な食物制限などがあります。いずれも子育て
中で大変なお母さんの余裕がなくなることが誘因になっているように感じます。
現代の子育てには多くのサポーターが必要であることを周囲が認識し、「子育ては母親の
仕事だ」と決めつけない態度が重要です。
こども医療ネットワーク理事長
河野 嘉文(鹿児島大学病院小児医療センター)