乳幼児期の予防接種
―重篤化や死亡を防ぐ―
こども救急箱(233)
あんしん救急箱では、乳幼児期の予防接種が取り上げられることが多いです。診療でも、
小児科医はことさら予防接種の重要性を強調していると思います。なぜそれほど「予防接種
を受けた方がいい」と言うのだろうと感じる人も多いのではないでしょうか。
予防接種が準備されている病気は、実際にかかると一定の頻度で重度な後遺症を残すか、
まれに死に至る可能性がある病気に限られています。「一定の頻度」はそれほど高くないの
で、日常生活を送っている人が遭遇することはほとんどありません。病気の恐ろしさが実感で
きないのも当然です。小児科医はそのような患者に会う機会があるため、予防接種の重要性
を認識しています。
例えば千人の子どもが流行性耳下腺炎(ムンプス)を発症すると、1人は聴力を失うと言わ
れています。ほとんど片側だけですが、気づいてからでは治せません。予防接種しか防ぐ方
法がないのです。
インフルエンザは受診して服薬すればすぐに熱が下がるようになりました。それで済むので
あれば、学校を5日間も休むように法律で定められませんね。インフルエンザ脳症は、時には
死亡することがあります。熱が出てから薬を飲んでも防げません。つまり、防ぐ方法は予防接
種だけです。
わが子が予防接種をせずに病気になり、重篤な合併症に見舞われた場合の保護者の落胆
と後悔は推測できると思います。そのような場面を経験しているから「接種すべき」と勧めてい
ます。
ちなみに定期接種と任意接種がありますが、医学的な重要性に差はなく、自己負担か公費
負担かの違いだけです。「任意」は接種してもしなくてもいいという意味ではありません。
こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児医療センター)