服用や予防接種
―正確な情報の収集を―
こども救急箱(238)
数年前、抗インフルエンザ薬を飲んだ後で異常行動を起こし、マンションから飛び降りた事
故が報道されました。その症状として「突然立ち上がって部屋から出ようとする」「人に襲われ
る感覚を覚え、外に飛び出す」「突然笑い出し、階段を駆け上がろうとする」などが報告されて
います。
その薬と異常行動の因果関係は証明されておらず、他の薬でも起こりうることや、抗インフ
ルエンザ薬を飲まなくても発症することが確認されています。小児科医の多くは、インフルエ
ンザそのものの症状であると考えています。
しかし「薬の副作用として異常行動が起きるので、抗インフルエンザ薬は使いたくない」と思
い込んでいる保護者は多いかもしれません。厚生労働省の指導では「医薬品の服用の有無
にかかわらず、少なくとも発症から2日間、保護者らは小児・未成年者が一人にならないよう
に配慮してください」となっています。
インフルエンザの予防接種についても、根強い誤解があります。「接種しても軽症のインフ
ルエンザにかかったから、効果がなかった」と判断すべきではありません。命に関わるような
重篤な症状、例えばインフルエンザ脳炎・脳症を予防するために接種するべきなのです。この
ことが、社会全体になかなか浸透しないのはなぜでしょうか。一度定着した説は、正しくなか
ったとしてもずっと引き継がれがちです。
全てを自己責任で考える国であれば、国や自治体がアドバイスを出しやすいのですが、行
政の許認可権が大きく、許可した国や自治体の責任を問われる日本では、わかりやすいアド
バイスが発信されにくいのかもしれません。服用や予防接種に対しては、正確な情報を集め、
判断する習慣が必要です。
こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)