水分補給
こども救急箱(56)
一般的に子どもの体は水分の比率が高いので、普通に維持するために成人の三倍
の早さで水分を補給する必要があります。成人が三時間に一回水分をとるのであれば、
乳幼児は一時間に一回補給する必要があるという意味です。外出時などは特に注意し
たい点です。
最近は一gあたり二百円以上する水やお茶のペットボトルを持って移動する姿をよく
見かけます。マラソンだけでなく運動の途中に水分を適切にとることが推奨されるようにな
ったので、日本人の水分補給に対する意識は変わってきました。
子どもたちの水分補給に関する知識は変化しているでしょうか?日本ではあまり知られ
ていませんが、世界の子どもの死亡原因一位は下痢による脱水症です。毎年アジア・
アフリカを中心に世界で二百万人以上の子どもが脱水症で亡くなっています。
これらの諸国では、下痢があっても食事は続けなければいけない、嘔吐しても水分を
飲まねばならないということが常識になっています。点滴治療に頼りがちの日本では、
嘔吐や下痢になると食事を休んで点滴するという一種の「信仰」があるようです。点滴
は悪いことではないですが、頼りすぎるのもよくありません。
とにかく、水分を飲むことが下痢を悪化させることはないと証明されていますので、積
極的に水分をとらせる必要があります。ただし、できるだけナトリウム(塩分)が入って
おり浸透圧が低い飲み物をとることがポイントです。その意味で塩分の少ない天然果
汁や糖分が多くて浸透圧が高いスポーツドリンクは、嘔吐や下痢があるときには不適切
な飲み物です。
スポーツの秋です。適切な水分補給をしながら楽しんでください。また、下痢が多くなる
冬場にも水分補給の重要性を再確認していただければと思います。
NPO法人こども医療ネットワーク
理事長 河野嘉文(鹿児島大学病院小児科)
平成20年10月13日 南日本新聞掲載