「卒乳」

 

こども救急箱(63)

「おっぱいはいつまで飲ませていいのですか」「甘えが強くなったり、むし歯になったりしませんか」

という質問をよくいただきます。以前は「断乳」という言葉が使われていましたが、お母さん側の原因で

母乳を絶たなければならないという強制的な印象が強いため、最近は「卒乳」「お乳離れ」という表現が

一般的になってきました。

赤ちゃんが育つために必要な母乳の栄養分は、成長時期によって変化します。六カ月を過ぎたころか

ら母乳中の鉄分やほかの栄養が少しずつ低下してきます。離乳食をきちんと摂取するようになれば、母

乳がなくても栄養は十分に足ります。

しかし赤ちゃんには十分な栄養だけでなく、心身ともに安らげる環境が必要です。それがお母さんの

おっぱいをくわえたり、懐に抱かれてお母さんの肌のぬくもりやにおいを感じることなのです。

一方で、母乳にのみ偏りすぎて離乳が進まず体重が増えてこないこともあるため、日ごろから健康

状態を観察することが必要です。「甘えが強くなる」と心配されるかもしれませんが、性格は遺伝や育った

環境によって形作られていくことが多いので、母乳で育てること自体が原因となるというわけではありま

せん。むしろ、自立心が強くなるという報告もあります。

また、むし歯が心配という声もよく聞きます。歯が生えた時期の夜間の母乳は良くないこともあるかもし

れませんが、それよりも乳児のむし歯はお母さんやお父さんのむし歯菌が赤ちゃんに感染することから

始まります。母乳が原因と考えるよりも、むし歯を子どもにうつさないよう注意することの方が重要でしょう。

「卒乳」は赤ちゃん自らが自然にお母さんのおっぱいから離れていく時期を決める自主性を尊重する

行為なのです。急ぐ必要はありません。赤ちゃんに声をかけながら一緒に決めていきましょう。

 

 

NPO法人こども医療ネットワーク会員 

上野健太郎(鹿児島大学病院小児科)

平成21年2月2日 南日本新聞掲載