新型インフルエンザ
こども救急箱(79)
社会的問題として新型インフルエンザが大きく取りざたされていますが、過剰反応に閉口している医療機関も数多くあります。
その典型例は、発熱もないのにせきや鼻水があると「インフルエンザかどうか調べてほしい」「学校に『病院で確認してもらってください』
と言われた」というものです。
新型インフルエンザウイルスに感染していないかどうかを知りたいという気持ちは分かるのですが、このような行動は最も重要な
知識が欠けていると言わざるを得ません。私たち医療従事者はインフルエンザ感染(体内にウイルスが侵入すること)と、症状を
伴った病気(病名としてのインフルエンザ)とは別だと考えています。インフルエンザという病名がつく患者さんは治療の対象になります
が、インフルエンザウイルス感染だけでは治療の対象にはなりません。
抗原検査と呼ばれるキットによる診断は、体内にインフルエンザウイルスがいるかどうかを見るものであり、病気かどうかを判定する
ものではありません。検査で陽性だけど元気にしている状態、つまりウイルスはいるけど病気ではない状態を不顕(ふけん)性感染と
呼びます。そのような人は結構多いのです。現在の検査キットでは、発症1日目には新型インフルエンザに感染している人の4割〜
6割にしか陽性反応は出ません。4割以上の人は感染していても反応は出ないので、症状がないのに検査を目的に受診する意義は
ないことが理解できると思います。
病院は感染しやすい場所ですので、不要不急の受診を控えることが新型インフルエンザ対策として重要であることをぜひ知って
ほしいと思います。
NPO法人こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児科)
平成21年10月26日 南日本新聞掲載