ペットの感染症
こども救急箱(81)
近年,ペットは私たちの日常に深く関わるようになってきました。人間との密着度が高い状態ではペットから感染する
病気にも配慮が必要です。日本ではペットからの感染症は約30種類が知られています。
その中の一つ,猫ひっかき病はこどもに多くみられ,猫にひっかかれたり噛まれたりした1〜数週間後に首や腋の下・足
のつけ根などのリンパ節が腫れる病気です。リンパ節の腫れや痛みは長い時は数か月間におよび,破れて膿汁が出ること
もあります。最近では,リンパ節は腫れず,熱や倦怠感,視力障害,髄膜炎,けいれんなどの症状で発症する例も少なく
ないことがわかってきました。特に野良猫や仔猫は原因菌であるバルトネラ菌を高率に保有し,ひっかきやすいため注意
が必要です。
また,犬猫の口腔内に常在するパスツレラ菌の感染により噛まれた部位が化膿したり,全身の感染症に発展したりする
ことがあります。さらに,犬猫の糞尿や胎盤から感染する病気(トキソプラズマ症,回虫症,レプトスピラ症,Q熱など)も
あり,それらの処理にも注意が必要です。犬猫だけでなく,カメなどの爬虫類もサルモネラ菌を保有し感染源となることが
あります。これらペット由来感染症の多くは感染しても必ず発症するというものではなく,人間側の免疫力やその他の要因
により一部の人で発症するものです。
動物と接することを過度に恐れる必要はありません。しかし,ペットにキスをする,口移しで食物を与える、同じ布団で
寝たりするなどの濃厚な接触は避けるべきでしょう。また,ペットを触った後は手洗いを心がけましょう。ペットは私たちの
心を癒してくれる良きパートナーです。こどもたちには「ペットは病気をうつすからダメ」ではなく,ルールを守って上手に
つき合っていくことを教えてあげることが大切です。
NPO法人こども医療ネットワーク会員
前野伸昭 (宮崎小児科)
平成21年11月30日南日本新聞掲載