「やせ」

 

こども救急箱(94)

子どもの「思春期」は急激に身長体重が増加し、体つきも大人っぽくしっかりとしてくる大切な時期です。この時期には十分な栄養と

睡眠、適度な運動が必要となります。

飽食の時代とされる近年、肥満が問題視される一方で、若い世代には不健康な「やせ」が広がっています。2005年の国民健康・栄養

調査では6歳から14歳の男子の20.3%、女子の18.1%がやせ気味かやせ過ぎでした。メディアに登場するやせ過ぎのアイドルがかっ

こよさの象徴となり、子どもたちは「自分は太っている。やせたい」と考えます。また、ストレス社会を生き抜くために、食べないことで自己を

表現する「神経性食思不振症」という病気もあります。

しかし、成長期の低栄養は非常に危険です。身長が伸びなくなり、女の子は月経も止まります。進行すると体内のミネラルやホルモンの

バランスが崩れ、生命の危険さえあります。将来的には不妊症や骨粗しょう症などに悩む可能性もあるのです。

若い妊婦さんのやせも問題になっています。母体の低栄養や喫煙などにより低出生体重で生まれる赤ちゃんが増えていますが、胎児

期に低栄養にさらされた赤ちゃんは体に貴重な栄養をできるだけため込むように遺伝子がプログラムされます。すると、生後与えられる栄

養環境がその子にとっては栄養過多となり、肥満やメタボリック症候群を発症しやすくなるというのです。小さく生まれてハンディがある上、

将来的には脳梗塞や心筋梗塞などのリスクも高まります。

やせていることで病院の診断を受け、治療の必要性が認識される例はほんのわずかです。日常的に繰り返す不健康な食生活を早めに

矯正してあげることが、とても重要です。

 

 

NPO法人こども医療ネットワーク会員

玉田 泉(今給黎総合病院小児科)

平成22年7月19日 南日本新聞掲載