HTLV―1感染について

 

こども救急箱(99)

HTLV―1は、人の血液中にあるT細胞といわれるリンパ球に感染するウイルスで、

感染したリンパ球が体内に入ることで人にうつります。感染する原因は輸血、夫婦間、

主に母乳を介した母子間の3つに限られます。

鹿児島県の調査によると、感染している母親が4か月以上(長期)母乳をあげると

20%の子どもに感染し、3か月以下(短期)だと、感染はその10分の1の約2%でした。

母乳をあげていない子どもにも5%感染していましたが、その原因はよく分かっていません。

ウイルスに感染した場合、最も気をつけたいのは、成人T細胞白血病という血液のがん

です。これは子どもの時に感染し、60歳ごろになってから、男性で約6%、女性で約3%の

人が発症するといわれます。県では年間約100人がこの病気にかかります。

このほか、大人でHAMという脊髄せきずいの神経が冒される病気にかかる場合が

あります。ごくまれに大人で目や肺などの症状が出ることもありますが、これらの病気を

発症しない限りは、熱などの症状はありません。

九州にはこのウイルスを持つ人が比較的多く、県内の産婦人科では、妊娠時にHTL

V―1検査を加えています。陽性の場合、お母さんに母乳を全く与えないことを勧め、それ

でも母乳を希望すれば3か月以下の短期母乳を勧めます。対策は1988年ごろから始ま

りました。現在では子どもやお母さんの陽性率も随分低くなり、地域によって多少異なりま

すが、2%以下になっています。輸血の検査は86年から開始され、輸血による感染の心配

はなくなりました。

鹿児島大学や県内の病院では、病気になった患者さんの治療にも積極的に取り組み、

研究も精力的に進めています。将来は、新しい治療法やウイルスを持っている人の発症

予防法が開発されることが期待されています。

 

 

NPO法人子ども医療ネットワーク

嶽崎俊郎(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)

平成22年10月11日南日本新聞掲載