赤ちゃんの栄養方法で、母乳かミルクかということはよく問題になります。このコラムでも取り上げたように、母乳不足や病気のためにミルクで育てる必要があるお母さんもたくさんいます。この場合のミルクというのは、一般的に粉ミルクのことで、お湯で溶かして準備すること、つまり調乳が必要です。
母乳とミルクを比較して何が異なるかを議論すると、鉄分の量とかタンパク質の種類の違いが示されるのですが、もっとも現実的なのは調乳の手間があるかどうかです。母乳の場合にはその場で授乳ができますが、ミルクの場合には一度沸騰させて70℃以上のお湯で溶かすことと、清潔な容器の準備が必要になります。そのため、地震や台風などの災害発生時の避難場所ではとても大変です。
2016年に発生した熊本地震のときに、フィンランドから液体ミルクが支援物質として送られてきました。調乳の手間が省略できるので重宝したという話を聞きましたが、日本では製造販売されていませんでした。各方面からの要請によって、2019年3月から液体ミルクが日本でも販売されるようになりました。今後各地で災害に備えて備蓄されることも予想されています。
調乳の必要がなく、常温保存でき、そのまま飲ませることができる液体ミルクですが、日本小児科学会ではいくつかの注意点をあげて周知を図っていますので、その内容を紹介いたします。(1)高温下で保存しない、(2)有効期限と容器破損の有無の確認が必要、(3)開封後はすぐに使用し、飲み残しは廃棄すること、の3点です。
非常に便利な液体ミルクですが、避難所等でも安心して母乳が与えられる環境を整備することも同時に重要なことだと思います。
こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児医療センター)