こども救急箱

vol.282 新生児マススクリーニング

―代謝異常症を早期発見―

南日本新聞掲載日付 2020/10/06

「新生児マススクリーニング」をご存知でしょうか?産院では「先天性代謝異常等検査」という名称で1977年から実施されています。先天代謝異常症とは非常に稀な病気で、食べ物から取り込んだ物質を分解したり、新しい物質を作ったりする「代謝」という働きに問題があり、様々な症状を引き起こす病気です。

新生児マススクリーニングは、赤ちゃん全員を採血してこの先天代謝異常症を早期に発見し、早期の治療により障がいの発生や突然死を防ぐことを目的とした検査です。現在、検査料は行政が負担してくれるため無料です。

当初は6疾患が対象でしたが、医学の進歩とともに新たに対象とする疾患が増えています。鹿児島県ではこれまでの20疾患に加え、最近ライソゾーム病という病気を追加できるようになりました。

私たちの体の細胞では、必要な成分やエネルギーを作る一方で、不要な物質を細胞内にあるライソゾームという小器官の中で、多種類の「酵素」と呼ばれるタンパク質が分解しています。ライソゾーム病は、これらの酵素の働きが弱く、細胞の中に不要な物質が溜まり、様々な症状をきたす病気です。これに対し、必要な酵素を補充する治療法が開発されましたが、早期診断が難しいことが課題でした。生後早期の診断で、早期治療が可能になり、障がいの発生を防ぐことが期待されます。

既存の新生児マススクリーニングで使用する血液の一部を使って検査を行うため、赤ちゃんへの追加負担はありません。但し、本検査に係る費用等は個人で負担していただく必要があります。検査を受けるかどうかは保護者の自由意思で決められます。現在はまだ一部の医療機関のみで可能ですが、今後、検査可能な医療機関が広がっていくと思われます。

 

こども医療ネットワーク会員

丸山 慎介(鹿児島大学病院小児科)

 

 

vol.281 明るい話題に注目

―コロナ禍 心に余裕を―

南日本新聞掲載日付 2020/09/01

先日の本紙朝刊の1面に、「県児童虐待通告5年で1.5倍」という記事が出ました。市民の関心が高まり多くの通報につながっていると分析結果も紹介されました。身体的虐待の場合には、何らかの形で小児科や救急科などの医療機関に受診すると推測しますが、医療現場で15倍の実感はないように思います。実際には2019年1,572人のうち、心理的虐待1,098人で最も多かったようです。

児童相談所、警察をはじめ関連機関の協力と整備の結果が現れてきつつあると思いますが、特に心理的虐待は言葉の暴力や差別などが当たりますが、目に見えないので対策は啓発活動が中心で、すぐには結果が出ないのが現実です。特に今年はコロナ禍で種々の制限が社会全体にかかり、鬱屈感があり何か余裕がない状況だと思います。余裕がなければ自分のことで精一杯ですし、自粛ムードの中で家庭内での問題も増えていると報道されています。早く社会全体に余裕が返ってくることが求められますね。

同じ日に急性白血病を克服して競技に復帰した競泳女子の池江選手の活躍がありました。急性白血病は小児がんの中でも最も多い病気ですが、いわゆる子どもの難病と言われる小児慢性特定疾病医療費助成制度の指定疾病は762もあります。これは世界に類を見ない制度で、誰でも最先端の医療が最小限の負担で受けられます。

ワクチンの無料化も進み、生後2か月からワクチンをたくさん受けてもらっています。まだまだ整備が必要と小児科医は運動を継続していますが、国に余裕がない時代には整備はできなかったので、ずいぶん余裕が出てきなと考えることもできます。

明るい記事に注目できる心の余裕が、心理的虐待の対策につながらないかなあと思います。

 

こども医療ネットワーク理事長

 河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.280 コロナ禍の「不要不急」

―予防接種控えないで―

南日本新聞掲載日付 2020/08/04

4月から5月にかけての緊急事態宣言で下火になったかと思われた新型コロナウイルスによる感染症が、全国的に再度勢いを増して広がっています。感染症予防と経済活動のバランスで、世界各国のリーダーが創意工夫にしているようですが、明確な正解がない課題に直面して難渋している様相です。

 わが国は諸外国に比して感染者数も死亡者数も少ないと思われましたが、想定よりも早く大きな勢いで第2波が襲来し、日常生活においても季節の恒例行事がことごとく中止になっています。

日常生活がコロナ禍で破壊されているように見えますが、考え方によっては新しい気づきをもたらしているかもしれません。例えば、私のような大学教員の立場では、各種学会をはじめ会議や授業のあり方など、従来やってきたことの中に、実は無駄な移動や必要のない行事が含まれていたことに気づき始めています。

 医療現場を見ると、手洗いやマスク、あるいは慎重な行動によって感染症の拡大は防げることを再認識しましたし、多くの方が病院受診の中には「不要不急」なものがあったと感じたかもしれません。

一方で、絶対に必要なことなのにコロナ騒ぎで後回しにされたのではないかと危惧することもあります。子どもの予防接種や健診です。予防接種は「ワクチンデビューは2か月から」という言葉で表現されるように、接種時期が非常に重要です。指定された期間に受けた場合にだけ公費負担になる制度は、接種時期に意味があるという理由です。乳幼児健診も同様で、仮に「もう少し経過をみましょう」ということがあっても、いつ指摘されたのかが重要な情報になります。

不要不急という言葉の意味は、それぞれの生活によって異なりますので、何もかも控えることがないように注意したいものです。

 

こども医療ネットワーク理事長

河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.279 こどもの靴の選び方

―前足部の幅に余裕を―

南日本新聞掲載日付 2020/07/07

 こどもの靴を選ぶときに、どのような靴を買うべきか迷うことはありませんか?今回は「こどもに適した靴」として医学的な観点、選び方について述べさせていただきます。

 まず、靴を選ぶ際に、こどもの足の発達、成長の特徴を知ることは大切です。歩き始めたばかりの子は骨の連結は緩く、立位で足底のアーチはほとんど認めず(いわゆる扁平足)、幅広い足です。4歳くらいまでにアーチが認められるようになりますが、形成が不十分なこともあります。また、足長は身長に比例して長くなりますが、足幅は個人差が大きいと報告されています。足幅は足長に比べて成長が遅れるため、成長とともにアーチがだんだん高くなり、幅広の足から細長い足へと成長していきます。こどもの足の筋力は十分ではなく内外反の動きの不安定性(正面から見て内返し・外返しの不安定性)も注意する点です。

 以上を踏まえ、こどもにとってどんな靴が良いか以下に簡単にまとめました。①前足部の横幅の広い靴(幅狭の靴は外反母趾や内反小趾などの変形の原因になる)。②サイズの目安は踵を靴の後方に軽く押しつけ、つま先までの余裕は5mmくらい。③未熟で不安定な足であるためにアーチを保持し、踵(かかと)を包み込む部分(カウンター)の構造がしっかりしている靴。④つま先立ちしたときに足の指の付け根の部分がしっかりと曲がり(踏み返しが十分できる)、踵が靴から浮き上がらないように、靴底が程よい屈曲性と弾性を持つこと。

 靴の買い替えは、足の成長のスピードを考えると1年に2回ほどが目安になります。こどもの足は未熟であり、大人の足に近づくための骨組みをしっかりとさせていく重要な時期でもあります。こどもの靴を選ぶ際に参考になれば幸いです。

 

279こどもの靴の選び方

中村俊介(鹿児島大学病院整形外科)

vol.278 新型コロナ「裏の顔」

―DVや虐待の発生報告―

南日本新聞掲載日付 2020/06/02

 今年は『ニイゼロニイゼロ』と心地よい響きの新年の始まりでしたが、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、感染に対する恐怖、流行阻止のための行動規制、およそグローバル化と逆行する鎖国状態、先進各国でみられた医療崩壊など、誰も予想できませんでした。

 コロナウイルスは一般的な風邪ウイルスの一つですが、今回はヒトが経験したことがない型に変化(変異)し、新型が誕生しました。当初は肺炎が騒がれましたが、味や臭いを感じないことや、小児では川崎病に似た症状も出ることが報告されています。

 一方で、この新型ウイルスに感染しても、症状が出ない人やごく軽症の人が8割もいること、特に若者にその傾向が強く、しかも症状がない状態でも他の人にウイルスを感染させてしまうことも判明しました。そのため、国から緊急事態宣言が発出され、居住地を離れない移動自粛が叫ばれています。主な死亡原因は肺炎ですが、成人、特に高齢者や肺疾患や糖尿病など基礎疾患を持つ人では急激に悪化することもあり注意が必要です。幸い、小児の重症例はほとんど報告されていないものの、注意を怠ってはいけません。

 以上が表の顔とすると、裏の顔も考えなければなりません。感染拡大を防ぐため緊急事態宣言が出ている時、学校は休校し、保護者も自宅での勤務を余儀なくされます。長時間、自宅のみで過ごしていると、閉塞感でストレスが蓄積し、ストレスを怒りによって発散する傾向になります。新型コロナはそんな人間の心の弱みにつけこみやすく、家庭内暴力(DV)や虐待の発生が各地で報告されています。

 新型コロナウイルス感染症の表の顔にも、裏の顔にも負けたくないですね。困った時には配偶者暴力相談支援センターや虐待対応ダイヤル「189」の利用もお勧めします。

こども医療ネットワーク会員
嶽崎智子(鹿児島生協病院小児科)