こども救急箱

vol.308 急性脳症

―ワクチン、重症化を予防―

南日本新聞掲載日付 2022/12/23

冬場になると、いわゆる「風邪」で発熱し、けいれんで救急搬送される子どもが増えます。多くは熱性けいれん(発熱に伴う短時間の全身性けいれん)で、予後も良好です。しかし、中にはけいれんが長く続いたり、けいれん後の意識の状態が悪かったりする子がいます。こうした場合、「急性脳症」という病気に注意が必要です。

急性脳症は、ウイルス感染などを契機とした過剰な免疫反応が脳の機能に影響を与え、けいれん、意識障害、行動異常などを引き起こす病気です。

確固たる治療法がなく、患者の状態に応じて脳のむくみを抑える治療や炎症性物質を抑制する治療などを集中的に行います。それでも3分の1を超える患者に後遺症が出て、さらに約5%の患者は亡くなってしまう、という点がこの病気の恐ろしさです。

急性脳症の原因としては、インフルエンザウイルスやヒトヘルペスウイルス6型(突発性発疹の原因)などが多く報告されています。また、新型コロナウイルスでも流行の拡大によって脳症による死亡例が報告されています。

一部の病気はワクチンがあり、急性脳症などの重症化の予防が期待できます。新型コロナウイルスワクチンについても、日本小児科学会が生後6か月以上のすべての子どもへの接種を推奨しています。

現在、一部のワクチンは任意接種で、接種するかどうかを保護者が判断しなければなりません。強調したいのは、「感染しないために」ワクチンを接種するのではなく、「急性脳症を含めた重症化を防ぐために」ワクチンを接種してほしいということです。これからの時季、さまざまなウイルスが流行しやすくなります。ワクチン接種をぜひ検討してください。

 

こども医療ネットワーク会員

今塩屋 聡伸(出水総合医療センター 小児科)

vol.307 インフルエンザ

―流行に備えワクチンを―

南日本新聞掲載日付 2022/11/25

冬はインフルエンザ流行の季節ですが、最近は2年続けて流行しませんでした。将棋の藤井聡太竜王の言葉を借りれば、思いがけない幸運を意味する「僥倖」でしたが、この冬は一体どうなるでしょうか。2年流行がなく、ウイルスに対する免疫が弱い人が増えていることを考えると、インフルエンザが子どもにとって脅威であることは間違いありません。

ワクチンには「インフルエンザの発症を予防する」「学校での欠席日数を減らす」などの効果が期待でき、国内の小児科医の大半が所属する日本小児科学会は接種を勧めています。台風や火山噴火に備えてさまざまな対策をするように、感染症の流行に備えることは非常に大事です。

「予防と治療とに人為の可能を用いないで、流行感冒に暗殺的の死を強制されてはなりません。」「世間には予防注射をしないと云う人達を多数に見受けますが、私はその人達の生命の粗略な待遇に戦慄します。自己の生命を軽んじるほど野蛮な心理はありません。私は家族と共に幾回も予防注射を実行し、其外常に含嗽薬を用い、また子供達の或者には学校を休ませるなど、私達の境遇で出来るだけの方法を試みて居ます。」(横浜貿易新報・1920年1月25日付)などの文が新聞に掲載されたのは、なんと100年以上前。インフルエンザの「スペイン風邪」が世界で大流行していました。「君死にたまふことなかれ」などで知られる歌人の与謝野晶子が、家族を感染症の脅威から守ろうと奮闘しながら寄稿したものです。

私たちは現代の文明社会に生きています。歴史に学び、科学の力を用いて、子どもたちと社会を守りましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

山遠 剛(県民健康プラザ鹿屋医療センター小児科)

vol.306 思春期

―始まりに個人差、治療も―

南日本新聞掲載日付 2022/10/28

「胸が大きくなるのが早いのでは」と心配して受診する女子は少なくありません。胸(乳房)の膨らみは、女子で最初にみられる二次性徴(思春期の徴候)で、胸のしこりや痛みで気付くことがあります。不思議に思われるかもしれませんが、しこりや痛みは男子にもみられる症状です。

思春期とは、子どもが大人になっていく過程で、心身ともに変化する時期を指し、性ホルモンが増加することで性差がはっきりしてきます。通常の思春期の始まりは、女子が10歳ごろ、男子が11~12歳ごろで、2~3年早いと思春期早発症が疑われます。

早発症の目安として、女の子では「7歳6ヶ月までに乳房が膨らみ始める、8歳までに陰毛・腋毛が生える、10歳6ヶ月までに生理が始まる」、男の子では「9歳までに精巣が発育する、10歳までに陰毛が生える、11歳までに脇毛・声変わりがみられる」があります。

そのほか、身長の伸び、骨の成熟、性ホルモンの増加などを総合的に評価して診断します。

病院では成長曲線を作成し、血液検査や手の骨のエックス線撮影などを行います。思春期早発症は、女子では原因不明の「特発性」が多いですが、男子は病気が隠れていることが多いので注意を要します。特発性でも、「周囲との差に本人が戸惑いを感じる」「早期に身長の伸びが止まる」いう問題点があります。

治療は、原因がある場合は原疾患に対する治療を行います。原疾患の代表例には脳腫瘍があります。特発性については、思春期が来るのを遅らせる治療もあります。

最近では学校でも成長曲線を作成するようになったため、学校から身長の伸びすぎを指摘されて受診されることもあります。思春期の開始は個人差がありますが、心配な時は小児科へご相談ください。

 

こども医療ネットワーク会員

徳永美菜子(今村総合病院小児科)

vol.305 起立性調節障害

―家族や周囲の理解大切―

南日本新聞掲載日付 2022/09/30

子どもの生活習慣として「早寝、早起き、朝ごはん」が推奨されていますが、早起きが苦手な子どももいます。早起きしようと思っても起きられない原因はいろいろあり、起立性調節障害という疾患の場合があります。

朝なかなか起きられず午前中は調子が悪い、立ちくらみやめまいを起こしやすい、顔色が悪い、疲れやすい、入浴すると気持ち悪くなる、乗り物酔いしやすい、頭痛や腹痛がある、といった症状があれば可能性があります。起立性調節障害は自律神経系の不調で、起立時に血圧の調整ができず脳血流が低下する疾患です。10歳から16歳くらいで発症しやすく、小学生の約5%、中高校生の約10%に見られます。

登校できないなど日常生活に支障がある場合、1年後の回復率は50%程度、2~3年後で70~80%程度と、長い時間をかけて回復していきます。本人は頑張りたくても体がうまく動いてくれません。周囲の理解がないと、抑うつ傾向になることもあります。長い時間をかけて体調を良くしていく上で、家族や周囲の理解が最も大切です。

病院では、診察や血液検査、心電図検査などで他の病気がないかを調べ、血圧の詳しい検査で起立性調節障害かどうかを診断します。生活習慣を整え、水分・塩分を多めに摂取することが勧められています。弾性ストッキングを着用したり、内服薬を使用したりすることもあります。午後の調子が良い時間に運動することも重要です。サプリメントや整体などによる改善は現時点で明確な科学的根拠はありません。

新型コロナウイルス禍で生活が大きく変化し、運動量も減ったことで、起立性調節障害を発症する子どもが増えています。気になる症状がある場合は、かかりつけ医に相談してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

四元景子(今村総合病院小児科)

vol.304 動悸

―子どもの脈測る習慣を―

南日本新聞掲載日付 2022/08/26

「胸がドキドキする」と動悸を訴える子どもがいます。動悸といっても内容はさまざまで、すべてが心臓の病気とは限りません。例えば、大勢の人前で話す時ドキドキするでしょうし、緊張やストレスで交感神経が活発になると心拍数が上がります。これは正常な反応で病気ではありません。

緊張するような場面でないのに、頻繁にドキドキするのは病気のサインかもしれません。発熱や脱水、貧血、甲状腺の異常など心臓以外の問題がある可能性があります。思春期であれば、起立性調節障害という自律神経機能不全による一症状のこともあります。

ドキドキする時に病院を受診できれば原因が分かるかもしれません。受診時にドキドキしていない場合は、動悸の説明が大切です。①きっかけがあるか② 時間帯③自覚症状と持続時間④突然始まり突然止まるか、または徐々に始まり徐々に止まるか⑤脈拍数はいくらか、規則正しいか不規則かーなどです。

毎日のように症状が出るのなら、24時間記録できる心電図検査を行います。頻度が少ないようなら、病院から携帯型心電計を貸し出し、ドキドキする時に測定します。簡易的には、スマートウォッチ(腕時計型端末)も役立ちます。原因が不整脈と判明すれば、対応の仕方も分かります。不整脈には、心配する必要のない不整脈や、内服やカテーテル治療が必要なものあります。

子どもが胸のドキドキを訴えた時、まずは脈を測ってみましょう。大人と同じように手首の親指側に指を当てて測ります。分かりづらい時は、子どもの胸に直接耳を当てて胸の鼓動を数えます。普段との比較になるため、気になる場合は、子どもの脈を確認する習慣を身に付けておくといいでしょう。

 

こども医療ネットワーク会員

二宮由美子(国立病院機構鹿児島医療センター)