こども救急箱

vol.339 ライソゾーム病

―検査で早期発見を―

南日本新聞掲載日付 2025/07/22

ヒトの体には多くの臓器があり、臓器は小さな細胞が集まってできています。生きていくために、必要なエネルギーや成分を、細胞内で作る一方、いらなくなったものは「ライソゾーム」でいくつかの酵素を使って分解・排せつしています。ライソゾームはいわば、細胞でのごみ処理施設の役割を担っています。

では、ライソゾームでの酵素の働きが弱かったりなくなったりすると、どうなるでしょう。不要なものが分解できず、たまってしまって不具合が出てしまいます。このような病気を「ライソゾーム病」と呼んでいます。

ライソゾーム病では臓器の障害が徐々に現れます。例えば、肝臓や心臓、腎臓に不要なものがたまって臓器が腫れ、働きが悪くなったり、脳に不要なものがたまって神経発達に悪さをしたりします。他にも関節が動きにくい、筋肉が痛むなどの症状が出ることもあります。

以前は治療法のない病気でしたが、現在は足りない酵素を定期的に投与する「酵素補充療法」をはじめ、さまざまな治療法があります。しかし、進んでしまった臓器の障害を元に戻すことはできません。そのためできるだけ早く、臓器の障害が起こる前に病気を見つけ、治療を始めることが望まれます。

鹿児島県では2020年から、生まれたばかりの赤ちゃんを対象にライソゾーム病を見つけることを目的とした拡大新生児マススクリーニングを実施しています。この検査は通常のマススクリーニング検査の有料オプションとして受けることができます。早期発見・早期治療のため、これから赤ちゃんが生まれるご家庭の方はぜひ受検の検討をお願いします。

 

こども医療ネットワーク会員

濱田詩織(鹿児島大学病院小児科)

vol.338 プレコンセプションケア

―正しい性知識を―

南日本新聞掲載日付 2025/06/24

プレコンセプションケアは、あまりなじみがない言葉ではないでしょうか。プレが前、コンセプションは妊娠、ケアは支援を意味し、直訳すると「妊娠前支援」です。

妊娠と聞くと女性だけに関係するものと考えがちですが、男女ともに妊娠するしないに関わらず、性や妊娠に関する正しい知識を身に付けて自分の将来の健康を守ることを支援する活動です。2023年の国の成育基本法の基本方針で推進することになりました。

自分の性別を認識するようになる3歳ごろから始めることになります。プライベートゾーン(胸・おしり・性器・口)は体の大切な場所と教えます。自分で守るものと理解してもらい、決して恥ずかしいところと思わせないことが大事です。

この知識が性被害・性加害などの当事者になるのを防ぎ、もしも被害にあいそうな時に大人に相談できることにつながります。

従来の性教育の中でも新しい知識があります。昔の女性の生理の回数は約50~100回でしたが、現代は約5倍の450回と多く経験することになりました。月経痛や月経前症候群のため、男性に比べ生涯で約6年もつらい期間があります。

調整し軽減する低用量ピルが2008年から保険診療で使えるようになっていますが、親世代は副作用の多い薬などと誤解することもあり、普及していません。子どもだけでなく、親も新しい知識が必要です。

妊娠前の男女の健康が、子どもの将来の健康にもつながることが分かってきています。鹿児島県もプレコンセプションケア推進事業を行っています。子どもの将来の健康を守っていきましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

根路銘安仁(鹿児島大学医学部保健学科)

vol.337 百日ぜき

―早めのワクチン接種を―

南日本新聞掲載日付 2025/05/23

百日ぜきは、特徴的な咳が長期間持続して回復までに100日ほどを要することに由来する、百日ぜき菌による感染症です。

典型的な百日ぜきは3段階の症状があります。まずは鼻汁・咳嗽といったかぜ症状が出現し、1〜2週間続きます。この間、徐々に咳が強くなっていきます。

次に、特徴的な咳が出ます。顔を真っ赤にして激しく連続して咳き込み、数十秒〜数分続きます。せき込んだ後に息継ぎのようにヒューという音をたてて息を吸う様子がみられます。この咳は1〜3週間で悪化し、最長2か月程度続きます。咳は徐々に回復していきますが、完全に回復するには最長6週間ほどかかります。ほとんどの場合、発熱はありません。

新生児や乳児は、無呼吸や肺炎、けいれん、脳症など合併症を起こして重症化することがあります。低月齢児ほど重症化しやすく、咳ではなくチアノーゼや無呼吸発作で発症することがあります。時には集中治療室での人工呼吸器管理を要する場合もあり、死亡例も少なくありません。新型コロナウイルス禍で激減した2020~2022年もほぼ毎年死亡例の報告がありました。

診断された場合、咳が消失するか抗菌薬治療を5日間投与するまでは登園を控えた方がいいです。治療は抗菌薬内服や、鼻汁・咳嗽への対症療法を行いますが、新生児や早期乳児は呼吸状態の観察のために入院での治療が望ましいです。

百日ぜきは予防接種で予防が可能です。百日ぜきワクチンは聞いたことがないかもしれませんが、五種混合ワクチンに百日ぜきが入っています。生後2か月から接種できるので、可能な限り早く接種することが望ましいです。最もハイリスクなワクチン接種前の乳児を守るために、上のお子さんがワクチンを接種することも大切です。

 

こども医療ネットワーク

下園 翼(鹿児島市立病院小児科)

vol.336 川崎病

―冠動脈瘤の防止重要―

南日本新聞掲載日付 2025/04/25

川崎病は4歳以下の乳幼児に多く見られ、全身の血管に炎症を引き起こす原因不明の病気です。①高熱、②両側の眼球結膜の充血、③真っ赤な唇とイチゴのような舌、④発疹、⑤手足の紅斑と腫れ、⑥首のリンパ節の腫れの6症状のうち5つ以上、または4つの症状に加えて心臓の冠動脈に病変がある場合に川崎病と診断されます。小さなお子さんではBCGを注射した場所が赤く腫れることも特徴的な症状の一つです。

川崎病で最も問題となるのは、心臓に栄養素や酸素を送る血管である冠動脈に、動脈瘤(こぶ)が形成されることです。急性期の強い炎症反応をできるだけ早く抑え、冠動脈瘤の発生を防ぐことが重要です。

治療には免疫グロブリン療法とアスピリン療法が行われますが、約20%の患者で治療の効果が十分に得られない場合があります。その際は、ステロイドやシクロスポリン、インフリキシマブなどの免疫抑制剤を併用することがあります。治療法の改善により、近年では冠動脈瘤の後遺症は約1~2%にまで減少しました。

冠動脈に後遺症が残った場合、長期間にわたりアスピリンやワルファリンなどの血液をサラサラにする薬を服用し、定期的に心臓超音波検査を受ける必要があります。冠動脈が正常に戻れば薬の服用を中止できますが、動脈瘤が残った場合は継続的な治療が必要です。

また、川崎病に似た症状を示す病気には、溶血性レンサ球菌感染症、アデノウイルス感染症、エルシニア感染症、若年性特発性関節炎などがあり、診断には慎重な判断が求められます。お子さんが発熱し、不機嫌な状態が続き、目や口、腕や手のどこかに赤みが見られる場合は、早めに小児科を受診し、医師に相談してください。

 

こども医療ネットワーク会員

上野健太郎(鹿児島大学病院小児科)

vol.335 クループ症候群

―いつもと違うせきに注意―

南日本新聞掲載日付 2025/03/28

お子さんが夜中に「いつもとは違う変なせき」をして、慌てて救急外来を受診した経験のある方がいらっしゃるかもしれません。この変なせきは「犬吠様咳嗽」と呼ばれ、犬が鳴くような「ケンケン」、オットセイが鳴くような「オウッオウッ」というせきで、「のどが痛そうなせき」と表現する保護者もいます。遠くからでも分かる特徴的なせきです。

のどの奥には声帯という声を出す場所があり、その周囲を喉頭といいます。喉頭に病原体が感染して腫れることで犬吠様咳嗽や声のかすれが出ます。また腫れることで気道が狭くなると息を吸う時にヒューっと音がしたり息が吸いにくくなったりします。この病態を「クループ症候群」と呼んでいます。

 好発年齢は6ヶ月〜3歳頃の乳幼児で、さまざまな風邪のウイルスが原因となります。病院では喉頭の腫れを和らげる吸入を行い、加えてステロイドの内服薬を処方する場合もあります。夜間や泣いた時などに症状が強くなることがありますが、大多数は数日以内に軽快します。呼吸が苦しくて顔色が悪い、胸がベコベコするような苦しそうな呼吸、反応が悪いなどの症状がある場合は病院を受診してください。

 同じような病態で、より重症の「急性喉頭蓋炎」という病気があります。喉の痛みでダラダラよだれを垂らし、呼吸の苦しさからあごを前に突き出して匂いを嗅ぐような姿勢をとります。このような場合は救急車を呼んでください。急性喉頭蓋炎の原因の多くはインフルエンザ菌b型(Hib)ですので、予防にはヒブワクチンがとても有効です。忘れずに接種しましょう。

クループ症候群は家庭での対応も重要です。お子さんが落ち着くように安心させ、室内の湿度を適度に保つことが症状の軽減につながります。加湿器を使ったり、浴室で蒸気を吸わせたりするのも効果的です。症状が悪化する前に適切な対処を心がけましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

古城圭馴美(鹿児島こども病院)