こども救急箱

vol.262 加熱式タバコの誤飲

―小型化で丸飲みの危険―

南日本新聞掲載日付 2018/12/04

 乳幼児の誤飲の第一位はタバコです。最近、加熱式タバコが普及してきていますので、今後、加熱式タバコの誤飲も増加することが考えられます。従来のタバコに比べて加熱式タバコは誤飲についての安全性はどうなのでしょうか。

 タバコの誤飲で心配なのは含まれるニコチンによる中毒です。小児の致死量は10~20㎎で、従来のタバコ約1本が相当します。また、嘔吐などの中毒症状は5㎎位で見られます。従来のタバコは、1本あたりのニコチン含有量の表示義務があります。しかし、加熱式タバコのタバコ葉の入ったスティックやカプセルには、実は表示義務がないので明示されていません。そのため、正式にニコチン含有量が公表されていません。国民生活センターが独自に調査した結果では、製品ごとにばらつきがありますが、約2~7㎎でした。従来のタバコに比べて1本あたりのニコチン量は少ないので安全の様にも思えますが、実際にはそうではないと思われます。

 従来のタバコでは1本を食べきる子は少なかったので本体での誤飲による中毒は少なく、中毒になるのは吸殻等を付けた水に抽出されたニコチンを大量にとってしまった例でした。加熱式タバコのスティックやカプセルは、小型化されています。そのため、容易に1個全体を誤飲してしまう危険性があります。従来はタバコ本体での中毒例が少なかったのが、今後は本体を誤飲により中毒症状を呈することが多くなること想像されます。また、使用後のスティックやカプセルも火の始末が無いためゴミ箱等の乳幼児の手の届くところに捨てられることが危惧されます。

 こどもの周りにはタバコが無いが一番です。ご自身の健康のためにも禁煙をしてくだされば幸いです。

 

こども医療ネットワーク会員
根路銘安仁(鹿児島大学医学部保健学科)

vol.261 早起き早寝

―生活の乱れが悪影響―

南日本新聞掲載日付 2018/11/06

 早寝早起きの習慣が大切と言われてきました。適切な睡眠習慣の確立が重要で、最近は学会や研究会でも子どもの睡眠について多くの議論がされています。

 生活習慣の乱れが気力や体力、さらには学業成績にも影響を及ぼすという種々のデータが示され、文部科学省による平成18年からの「早寝早起き朝ごはん」国民運動の推進につながったと思います。

 乱れの原因がSNSにあるとする意見も多く、その浸透力の強さに社会全体で抵抗できない状況です。それもあって最近では子どもの睡眠の重要性が特に注目を浴びるようになっています。

 昔から寝る子は育つと言われ、適切な睡眠によって成長に必要なホルモンの分泌が促進されることも証明されています。朝の光をあびることによって脳内ホルモンのセロトニンが活発に分泌され、集中力のある活動を推進し、日が沈むとメラトニンという睡眠を促すホルモンが分泌されて自然の眠りにつきます。

 文明の発達で太陽とともに生活する習慣が崩れてきたのですが、子どものときだけでも何とか自然に近い状況で育ってほしいですね。

 朝の光に浴びた時点でメラトニンの分泌スイッチが入り、約16時間後から分泌されることがわかっており、自然で良質な睡眠を獲得するには、これらの仕組みがうまく働くことが重要です。つまり、スイッチを入れる早起きが先で、次に朝ごはんをよく噛んで食べることによりセロトニンを分泌させ、昼は活発に活動し、夜にメラトニンよって就寝するのです。ポイントは早寝早起きではなく、早起き早寝なのですね。

 社会全体を見ると深夜に勤務する保護者もいるわけですので、家族全員で早起き早寝というわけにはいかない家庭もあります。それぞれのご家庭に合わせた子どもの「早寝早起き朝ごはん」があるのかもしれません。

 

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.260 溶連菌感染症と合併症

―腎機能低下にも注意―

南日本新聞掲載日付 2018/10/02

 のど(咽頭、扁桃)に感染する病原体にはいろいろなウイルスや細菌があります。咽頭炎、扁桃炎の原因の多くはウイルスですが、注意すべき細菌として溶連菌(溶血性連鎖球菌)があります。溶連菌感染症の代表的な症状は、喉の痛み、発熱、鮮紅色の発疹です。舌が赤く腫れたり(苺舌)、発疹が治まった後に指の皮がむけることもあります。他にも伝染性膿痂疹(とびひ)のような皮膚感染症や中耳炎、肺炎などの様々な症状を呈することがあります。

 溶連菌による上気道炎患者の5~10%に、皮膚感染症患者の約25%に、それぞれ平均10日後および平均20日後に発症する急性糸球体腎炎です。それは、血尿、蛋白尿などの尿所見が突然に出現して発症する腎炎で、溶連菌感染後急性糸球体腎炎と呼ばれます。2~12歳に多く、小児にとって注意すべき疾患です。

 溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、自然治癒率が高く、一般的には予後良好な疾患とされています。しかし、浮腫、高血圧、高度の蛋白尿、肉眼的血尿などがあるときは入院が原則です。腎機能が低下し、浮腫がある時期には塩分や水分の摂取制限を行う必要があります。まれではありますが急激な血圧の上昇によりけいれんや嘔吐などを伴う高血圧性脳症を発症することもあります。

 溶連菌感染症に罹患していたことに気づかずにいて、肉眼的血尿や浮腫、高血圧があり、血液検査(ASO高値や低補体血症など)、尿検査などで溶連菌感染後急性糸球体腎炎と診断されることもあります。

 したがって、溶連菌感染症と診断された時には急性糸球体腎炎を予防することが重要です。その治療には抗菌薬を内服しますが、急性糸球体腎炎の予防には抗菌薬の種類にもよりますが、症状に関わらず7~10日間内服を継続することが勧められます。

 

こども医療ネットワーク会員
永迫博信(帖佐こどもクリニック院長)

vol.259 子育て支援

―多面的な負担軽減を―

南日本新聞掲載日付 2018/09/04

 人生100年時代と言われるようになりましたが、2010年以降に生まれた日本人の半数は107歳まで生きるという推計があります。もちろん、日頃から健康管理に注意し、成人期にはがん検診を受けて、適切に薬も利用するという条件付きだと思います。

 現在の少子化傾向がこのまま続けば、子どもの比率は想像できないほど下がりますから、若者が働いて高齢者を支える従来の社会バランスが崩れることは明白です。それを防ぐために、国策としてさまざまな子育て支援対策が練られています。しかし、刻々と変化する時代のニーズに合った政策立案は難しいと言われます。「最近の若い者は・・」という世代間の考え方の違いのためでしょうか。

 小児科は病気になった子どもの診断と治療をし、予防接種や健診などの保健業務を担当することで子育てを支援しています。最近では、上手に社会生活に馴染めない子どもの割合が増加し、療育の現場で発達障害児の支援に関わることもあります。

 ところで、少子化対策には、子育て中のお母さんがもう一人子どもが欲しいと思える環境作りが重要です。子育ての経済支援だけでなく、保護者の精神的負担にも配慮する必要があると思います。

 共働きやひとり親の家庭に限りませんが、平日に実施される学校行事だけでなく、休日行事やボランティア活動等に参加できないことも多いです。もちろん、できない事情は認められますが、精神的な負担は発生します。日本在住の外国出身の友人によると、幼稚園や小学校等の教育機関から求められる役割負担が大きく、両親が職を持って楽に子育てをする環境にないという感想を持っているそうです。

 保育園の無償化以外に、子育て支援策は種々の角度から考慮されるべきかもしれません。

 

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

 

vol.258 風邪と抗菌薬

―細菌由来の症状に処方―

南日本新聞掲載日付 2018/08/07

 小児科を受診する患者の症状で最も多いのは、発熱、鼻水、せきなどの風邪症状です。子どもが熱を出し、ぐったりしていると、家族はとても心配することと思います。
 家族から「心配なので抗菌薬(抗生物質)をもらえませんか」「気管支炎や肺炎にならないように、予防的に抗菌薬をください」という申し出があります。「風邪で抗菌薬を飲んだが、良くならない」という声をいただくこともあります。
 風邪の病原体は、主にウイルスと細菌に分けられます。鼻、のど、気管など気道の感染症が多いですが、嘔吐(おうと)、下痢などの胃腸炎症状を起こすこともあります。風邪の約90%はウイルスが原因です。抗菌薬は細菌には効果がありますが、ウイルスには効果がありません。抗菌薬は副作用として、下痢や薬疹、肝機能障害が出ることがあります。
 不必要な抗菌薬使用は、抗菌薬に抵抗性を持つ薬剤耐性菌を増やし、それによる感染症の増加が国際的に問題となっています。米国では、処方された抗菌薬の約30%が不必要だったとの報告もあり、日本でも抗菌薬の不必要な使用が一定の割合であると推測されます。
 しかし、新生児期や乳幼児期の感染症(インフルエンザ菌、肺炎球菌、A群溶連菌など)、学童期に多いマイコプラズマ感染症では、抗菌薬が必要になる場合もあります。小児科医は症状と、診察、検査結果から抗菌薬が必要かどうかを判断しています。
 抗菌薬が必要な状況を減らすことも重要です。手洗い(流水と石けんでの手指衛生)、予防接種、せきエチケット(マスクの着用やせき・くしゃみの際に口と鼻を覆い、顔を他の人に向けない)、うがいなど、普段から感染の予防を心がけることが大事です。

 

こども医療ネットワーク会員
上野健太郎(鹿児島大学病院小児診療センター)