こども救急箱

vol.296 子どもが頭を打ったら

―活気や機嫌の確認を―

南日本新聞掲載日付 2021/12/03

子どもが頭を打って心配された経験は、どなたにでもあるのではないでしょうか。日常的に発生しやすいとはいえ、いざその場面になると慌ててしまいますよね。

まずは意識状態、活気や機嫌、打撲した場所、強さの程度の確認が必要です。よびかけても反応がなく目をつむっていたり、反応して目を開けてもすぐに寝る、言葉を発しない、手足を動かさない場合は意識状態が悪いため、直ちに病院を受診しましょう。

頭を打った1~2時間後でも元気がない状態が続く場合や、複数回もどす状況が続く場合は受診が必要です。打撲部位に変形や腫れ、へこみがある場合は頭蓋骨骨折の可能性もあります。受傷時に強い力が働く「高エネルギー外傷」の場合は、頭蓋内出血、脳損傷をきたす場合がありますので、注意が必要です。2歳未満では約90cm以上、2歳以上では約150cm以上からの高所からの落下、高速物体との衝突、交通事故などがこれにあたります。

軽症例では頭部コンピューター断層撮影(CT)の必要はありませんが、重症例を見逃さないため、被ばくのリスクと検査のメリットなどを加味し、医師の判断でCT撮影を決定します。1回目は明らかでなくても、2回目以後のCTで頭蓋内出血や脳損傷が明らかになることがあります。けがをしてから24~48時間程度は症状の変化がないかに注意が必要です。

子どもはちょっとした隙に予期しない行動をします。目を離さないとともに、事故につながらない環境を整えることが重要です。柵の設置、ベビーベッドの柵を上げる、運転中はシートベルトを装着する、抱っこひもやスリングの使用時はかがむ、などの対策がそうです。

事故の予防、そして万が一起きてもその程度を少しでも軽くするために、日常にひそむリスクを見直してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

加藤嘉一(鹿児島県立大島病院)

vol.295 児童発達支援

―特性に応じ行動変容促す―

南日本新聞掲載日付 2021/11/05

最近、「保育園の先生から療育をすすめられたのですが」と相談を受けることが多くなりました。「療育」は、児童福祉法に定められている児童発達支援とほぼ同義語として使われています。今回は、この児童発達支援について簡単にご紹介します。

児童発達支援は、児童福祉法に基づいて規定された、障害のある子どもやその可能性のある子どもが自立した生活を送れるようにするための支援です。もともとは身体障害のある子どもへの治療と教育を合わせたアプローチを表す用語として使われていましたが、今は障害のある子どもの発達を支援する働きかけの総称として使われることが多くなっています。

対象は、身体障害、知的障害、精神障害、発達障害などを持つ子どもです。勘違いされやすいですが、医師の診断がなくても支援を受けることは可能です。むしろ、診断がつかないけど困りごとを抱えている、いわゆる“グレーゾーン”の子どもの支援を目的に現在の児童福祉法に改定されました。子どもは一人一人発達のスピードが違います。育児書に載っている発達の経過は、あくまで平均値で、遠回りしたり、順番を前後したりする子どももいます。児童発達支援では、その子の発達状況や障害特性に合わせて関わることで、できることを増やしたり、力を引き出したりすることができます。「褒められた」という経験だけで、行動が変わる子もたくさんいます。

近年、児童発達支援を行う事業所の数も増えてきています。ただし、事業所はあくまでも力を引き出す方法を見つける場所であることには注意が必要です。日常生活で実践するためには、保護者も声掛けの方法などを勉強する必要があります。療育をすすめられたら、まずは見学して、子どもが楽しそうか、自分が相談しやすそうか確認してみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

松永愛香(鹿児島大学病院小児科)

vol.294 トキソプラズマ

―妊婦への周知と予防を―

南日本新聞掲載日付 2021/10/01

皆さんは「妊娠中に猫を飼ってはいけない」と耳にしたことがあるかと思います。これはトキソプラズマ感染症を予防するためです。トキソプラズマとは寄生虫の一種で、加熱が不十分な食肉や猫のふん便に含まれており、ヒトが経口摂取することにより感染します。通常、トキソプラズマに感染しても多くは症状がありませんが、妊婦と胎児は違います。

妊婦が初めてトキソプラズマに感染すると母から胎児への垂直感染により死産や流産の原因になります。そして、生まれてきた赤ちゃんは先天性トキソプラズマ感染症にかかっている可能性があります。先天性トキソプラズマ感染症には網脈絡膜炎、脳内石灰化、水頭症の3主徴(代表的な症状)のほか、小眼球症、小脳症、肝脾腫、黄疸など多彩な症状があり、新生児期に出現するものから、精神運動発達遅延、てんかん、視力障害など乳幼児期以後に明らかになるものもあります。

このように神経学的・眼科的な後遺症が残ることがあるにも関わらず、現時点では保険診療で認められた治療法はありません。したがって、先天性トキソプラズマ感染症は予防が大切です。

具体的には、肉は十分に加熱してから食べるようにし、野菜や果物はよく洗うか皮をむいて食べてください。生肉や野菜、果物を扱った調理器具、食器も洗剤と温水で洗浄するのがいいです。

ガーデニングなどで土を触る際は手袋を着用し、土を触った後は手洗いを徹底しましょう。子どもがいる場合には、一緒に手洗いし、手指衛生の重要性を教育することが重要です。

妊娠後に新しく猫を飼い始めないようにし、従来から飼っている猫はできるだけ部屋飼いにし、猫のトイレの世話は妊婦以外の人が行うようにしましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

中江広治(鹿児島大学病院小児科)

 

vol.293 子どもの便秘

―「ためる癖」を治す―

南日本新聞掲載日付 2021/09/03

小児科外来にくる子どもたちの中には、便秘の子が少なくありません。夜間救急で、強い腹痛を主訴に来る子たちの中で、一番多いのが実は便秘です。病院に到着すると痛みが消える子もいますが、かん腸をして便が出たらニコニコ笑顔でひと安心、ということがよくあります。痛みは腸にたまった大量の便が動くことで起こります。腹痛が繰り返し起きるため受診し、腹部レントゲン写真を撮ると、腸に「うんちがいっぱい」と驚くこともよくあります。

子どもの便秘が始まりやすいタイミングとしては、離乳食の開始時や、食事の回数をアップしたとき、トイレのトレーニング期、通園、通学の開始時などがあります。

①毎日出るものの、排便時に30分きばってもなかなか出てこない②便汁だけがよく出ている③毎回硬い便が出て、肛門が切れて血が出る④部屋の隅で足をクロスして顔を真っ赤にしている―などの症状は便秘が原因の可能性が高いです。     

また、繰り返すげっぷや嘔吐、口臭、夜尿症(おねしょ)といった症状は、便秘が原因となっている場合もあります。

便秘の要因はさまざまですが、水分不足、食物繊維不足、腹筋の弱さ、排便を我慢することなどからくる「機能性便秘」であることが多いです。

診察時は便塞栓といって便の大きな塊が直腸を塞いでいる事もあるので、塊があればまずかん腸をして除去した後、その子の状態に合わせて薬を処方します。

便を柔らかくする薬や、腸を刺激して出しやすくする薬、あるいはかん腸、座薬などを使い分けます。これらの治療は「便をためるクセ」を治すことが目的です。

治療開始が遅れるほど、治すのに時間がかかる傾向があります。ぜひお近くの小児科で相談してください。

 

こども医療ネットワーク会員

横山浩子(国立病院機構南九州病院小児科)

vol.292 肥満防止の運動

―1日1時間を目安に―

南日本新聞掲載日付 2021/08/06

新型コロナウイルス感染症の流行により私たちの生活は大きく変化し、大人だけではなく子どもにも様々な身体や心の影響がみられています。特に2020年3月の一斉休校時には体重増加を認めた子どもが増え、その影響を実感しました。

子どもの肥満のほとんどは単純性肥満といって、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回っているために生じます。小児期は成長にも大事な時期で成長を妨げない範囲のエネルギー補給が必要ですので、年齢に応じた適切な食事や運動が必要です。

具体例を挙げてみます。活動量が普通の10~11歳男児で、1日に必要な摂取エネルギーは2,250kcalです。このうち50〜60%は炭水化物で補う必要があり、1回の食事で摂取する適切な米飯の量は180〜200gです。これは大人用茶碗の一杯分に相当します。これにタンパク質、脂質、野菜や果物をバランスよく加えた食事が理想的です。食習慣で大事なことは朝食をぬかない、決まった時間に食事を摂る、ゆっくり噛んで食べることです。おかずを個々に分けて盛り付けることも食べ過ぎを防ぐのに有効です。

運動は1日1時間程度が必要と言われていますが、運動のためのまとまった時間を取る必要はなく、学校の休み時間に走り回ったり、階段を昇り降りしたりする時間も含まれます。

肥満は生活習慣病と呼ばれる2型糖尿病、高血圧などの原因となり、将来的に心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。小児期の肥満は大人の肥満に移行しやすいことがわかっており、幼児期肥満の25%、学童前期肥満の40%が大人の肥満に移行します。

したがって小児期から肥満を防ぐことはとても大切です。また肥満の予防・改善には家族皆で取り組むことが大事です。家族で生活習慣を見直してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

関 祐子(鹿児島大学病院小児科)