こども救急箱

vol.303 鼻血

―頻繁な場合は医療機関へ―

南日本新聞掲載日付 2022/07/29

子どもが頻繁に鼻血を出すことを経験された保護者は多いのではないでしょうか。保護者自身にも、そのような経験があるかもしれません。「よく鼻血が出るが、大丈夫だろうか」と心配になることがあると思います。ほとんどの場合は大事に至りませんが、厄介な病気が隠れていたり、なかなか止まらなくて苦労したりすることがあります。乾燥や外傷が原因の場合や、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、時には血液の病気が見つかることもあります。

鼻の入り口から1-2㎝の付近に『キーゼルバッハ部位』と呼ばれる場所があります。毛細血管が集まり、粘膜が薄くなっているため、非常に傷つきやすく、少しの刺激で出血してしまいます。大部分の鼻血はここからの出血です。

止血のポイントは鼻翼(小鼻)を両方から挟むようにして指で押さえることです。ティッシュペーパーなどを鼻に詰めることはあまり推奨されません。詰めた際に鼻の粘膜を傷つけて傷口を広げたり、取り出すときに「かさぶた」がはがれて再び出血したりするからです。また、「首の後ろをトントンたたく」、「鼻の付け根の固い部分をつまむ」というのもよく聞きますが、これらは迷信であり止血効果はありません。

止血時に上を向いて寝ると、血液が喉に流れ込み、飲み込んだ血液が胃にたまると吐き気が生じ、嘔吐の原因になります。腰掛けて少し前かがみの姿勢で止血してください。10分も押さえていれば止血するでしょうが、それでも止まらない場合や、鼻出血が頻繁にある場合は医療機関の受診をおすすめします。受診される際は出血の持続時間のほか、左右のどちらから出血しやすいか、歯茎からの出血や腕や足に紫斑などの出血症状があるかどうか、内服中のお薬の情報があれば教えてください。診断の助けになります。

 

こども医療ネットワーク会員

棈松 貴成(国立病院機構鹿児島医療センター小児科)

 

vol.302 尿の色

―疾患のサインの可能性―

南日本新聞掲載日付 2022/06/03

お子さんの尿の色を確認することはありますか。尿の色は、お子さんの健康状態を示している可能性があります。尿は腎臓の中で血液をもとにつくられます。不要な老廃物や水分などをろ過して尿がつくられ、尿管・ぼうこう・尿道を通り体外に排出されます。

健康な人の尿の色は、淡い黄色から黃褐色です。これは血液を分解した際に出る代謝物のウロビリンの色です。水分摂取量が多いと、尿量が増えてウロビリンが薄まり、透明に近くなります。逆に水分摂取量が少ないと、尿量が減ってウロビリンが濃くなり、褐色になります。

尿が赤く見える場合には、尿に血液が出ているか、激しい運動後に壊れた筋肉から出たミオグロビンが混じっている可能性があります。尿検査をすることで区別は簡単にできます。尿に血液が出ている場合は、腎臓・尿管・ぼうこう・尿道の問題を考えます。

肉眼では赤みが目立たず、簡単な検査で血液が混じっていることが分かる場合があります。乳幼児健診や学校検診で指摘されるようなときです。症状がなくて見つかった場合でも、病気の発見につながる可能性があるため、早めに病院を受診するようにしましょう。

尿が白く濁っている場合は尿路感染症の可能性があります。排尿時の痛みや熱などの症状を伴うことが多いですが、小児では痛みがあることを「排尿を極端に嫌がる」ということで表現することもあります。

また、風邪などで薬を内服している際には、薬が反応して茶色、黒色、緑色、オレンジ色などに変色することがありますが、薬を飲み終わると通常の色に戻ります。飲み終わっても変色が続く場合には病院を受診しましょう。

このように、尿の色だけでもさまざまな疾患のサインの可能性があります。お子さんの体調チェックに尿の色も参考にしてみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

岡田聡司(県民健康プラザ鹿屋医療センター)

 

vol.301 にきび

―ますは規則正しい生活を―

南日本新聞掲載日付 2022/05/06

にきびを経験したことがない大人はいないのではないでしょうか。にきびは思春期から青年期にかけてなりやすく、青春のシンボルともいわれます。大人になってできたものは吹き出物と呼ばれたりしますが、医学的には尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)という病名で、全く同じものです。

にきびの大きな原因は以下の三つがあります。①毛穴の詰まり②皮脂の過剰な分泌③アクネ菌の増殖です。にきびは毛穴の角質が厚くなったり、皮脂が過剰分泌されたりすることにより、毛穴の出口が詰まり皮脂がたまってしまい、アクネ菌が毛穴の中で増殖することによって引き起こされます。

また、思春期には男性ホルモンが増加することで皮脂が過剰に分泌され、にきびができやすいといわれています。他にもステロイドというホルモンの薬の全身投与を長期に行っている人では、にきびができやすいといわれています。

治療は従来からいわれているように、まずは規則正しい生活を送り、ホルモンバランスを整えることが大事です。また、顔をきれいに洗浄し、きれいなタオルで優しく拭き、汚れた手で触らない(いじらない)ようにしましょう。

にきび痕は残ったらなかなか消えず、鏡を見るのが嫌になったり、学校に行くことが嫌になったりと、日常生活に支障が出ることもあるかもしれません。

病院でもにきびの薬は処方できます。日本皮膚科学会が策定したにきび治療のガイドラインでは、アダパレンという毛穴の詰まりに効果があり、にきびをできにくくする塗り薬と、アクネ菌や炎症に有効な抗生物質の飲み薬や塗り薬を強く推奨しています。この薬が使われるようになってからは、元気な中高生の「ニキビづら」をほとんど見かけなくなったように感じます。近くの皮膚科や小児科をぜひ受診してみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

中村 陽(鹿児島大学病院小児科)

vol.300 言葉の発達とスマホ

―2歳までは使用控えて―

南日本新聞掲載日付 2022/04/01

産まれたばかりの赤ちゃんは、声を上げて泣いたり表情を微妙に変えたりして、自分の思いを表現します。このことに周りの人々が気付き、赤ちゃんの世話をしたりあやしたりすることで、赤ちゃんは「愛情」を実感し、社会との関わりが始まります。

体の成長に伴い子どもたちの世界はさらに広がり、次第に興味ある物を「指さし」で周囲の注意を引くことを覚え、自らの欲求を満たすことができるようになります。

周りの人々が見る物にも一緒に興味を向けられるようになり、そこに「名前」がついているらしいことを学んでいきます。こうした「生きた体験」をたくさん積み重ねて、「言葉の獲得」にたどり着くのです。

このように、子どもたちの発達には五感を通じた体験と、人との関わりが重要です。当たり前のように見える日々の体験が、一人一人の感性が磨き、想像力や感情を育てていきます。

多忙な現代社会にあって、つい子どもの欲求をスマホやタブレットで満たしていないでしょうか。漠然と見るだけになってしまいがちなこのようなデバイスの長時間使用は、子どもたちの発達に悪影響を及ぼす可能性があり、2歳までは使用を控えることが勧められています。

物を見たり、動かしたり、触ったり、匂いを嗅いだり、本を読んでもらったり…。大人にとっては何気ない日々の小さな時間が、子どもたちにはかけがえのない体験になるのです。

物事への興味の持ち方や、子どもたちの性格は個人差があり、それによって言葉の獲得への道のりもさまざまです。

一人一人の個性を尊重しながら、長い目で見守っていくことも大切でしょう。言葉の発達で不安なことがあれば、療育機関や保健師、小児科医といった専門家と一緒に考えを深めてみるのはいかがでしょうか。

 

こども医療ネットワーク会員

下村育史(鹿児島大学病院小児科)

vol.299 長引くせき

―乳児の授乳量低下に注意―

南日本新聞掲載日付 2022/03/04

「この子、せきが長引くんです」と訴えて小児科を受診される方がいらっしゃいます。仮に本人が元気であっても、何か悪い病気が隠れているのではないかと不安を抱えて受診されるのだと思います。今回はこの「長引くせき」についてです。

最も多いのはいわゆる「風邪」です。特に保育園に行っている3歳未満児は風邪が治ってはまたかかりを操り返し、年中なんらかの風邪をもらっている子も珍しくありません。集団生活に入ったばかりの数か月に特に多くみられます。熱もなく元気であれば、せきが目立つ風邪が長引いている可能性が高く、特に心配しなくてよさそうです。

次に多いのは蓄膿といわれる「副鼻腔炎」によるせきです。頬の奥にある副鼻腔といわれる空間に炎症が起こり、うみがたまる病気です。せきと一緒に頭痛がある場合や、元々鼻炎があるときにはこれを疑います。

また、典型的ではありませんが「喘息」によるせきもあります。喘息はゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音が典型的ですが、まれにせきが目立つタイプもあります。小さい頃に気管支喘息の診断を受けたことがある、もしくは風邪をひくとぜいぜいしやすい場合には喘息によるせきの可能性があります。

他には「マイコプラズマ」や「百日ぜき」といったせきが目立つ感染症もあります。周りでこれらの診断を受けた方がいたり、診断はなくてもひどいせきがはやっていたりする場合、これらを疑うことがあります。せきで何日も眠れない、口から水分などをとる量が減ってきた、など心配なことがあれば受診してください。

せき自体はたんや異物を外に出す自然な反応であり、無理に抑える必要はありません。しかし、乳児でせきがひどくて眠れなかったり、授乳量が低下してしまう場合には注意が必要ですので、かかりつけの小児科医へご相談ください。

 

こども医療ネットワーク会員

関 俊二(国立病院機構指宿医療センター)