日本の医療制度の特徴は国民皆保険制度であり、いつでもどこの医療機関でも受診できる点で優れていると言われています。その制度を維持するための財源確保が難しくなり、政府はいかに国民医療費を削減するかに頭を悩ませています。病院で点滴や機械に繋がれて最後を迎えるのではなく、自宅で最後を迎えるべきだという意見も、一部は老人医療費の増加抑制政策と合致しているかもしれません。
そのような社会情勢の中でも、私たち小児科医は難しい病気の子どもさんの治療において、医療経費を気にすることなく診療ができています。国や自治体による各種の助成制度や難病対策の一貫として、小児慢性特定疾病対策事業をはじめとする各種助成制度のおかげで、子育て世代の実質的医療費負担は軽減されています。
集中治療室では1日の医療費が数十万円かかっていることや、1回5mlの注射薬が1,000万円近い値段であることを、患者さんの保護者や小児科医が気にしないで最善の医療を提供することに専念できます。最近では25歳以下の一部の白血病患者に投与する3,350万円の特殊な治療も認可されました。子どもたちは守られるべき存在であり、最大限の努力が払われているように思います。
一方で、人口減少によって財政的に厳しくなることが予測されるわが国で、恵まれた医療制度がいつまで継続できるのかという疑問も出てきます。1回の受診で支払う医療費の数十倍の経費が発生していることを意識し、医療資源の節約を心がけるべき時代になっています。
昭和に始まり、平成で充実した医療制度を守るために、新しい令和では病気にならないように予防策をさらに強化したいですね。限られた医療資源を必要な患児にきちんと届けられるように。
こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)