病気の治療成績は時代とともに向上していますが、普通は「医学の進歩によって」と説明されます。治療はどのように進歩してきたのでしょうか。実はそれぞれの時代に治療を受けた患者さんの情報を蓄積・分析し、次の世代の人々の治療が開発されています。世代間協力です。
自分が子どものときの健康情報と、老人になってからの病気の情報が結びつけられると、どのように予防すべきかがわかり、次の世代は病気の予防ができるかもしれません。
小児科医は母子手帳を見る機会が多いのですが、その情報はその後どのように利用されているかあまり考えていませんでした。また、毎年実施する学校健診の記録は、個人には渡されますが、社会としてうまく利用できていなかったようです。
法律に基づいて実施されている母子手帳交付や学校健診のデータが無駄にならないように、個人情報を保護しながら、将来の自分あるいは次の世代に活用できるよう整理保存する活動が始まっています。貴重なデータを生涯にわたる健康情報(ライフコースデータ)としての利用を考える京都大学の川上浩司教授らによる研究です。
最新の個人情報保護法にも臨床研究に関する法律や指針にも対応し、行政と保護者が安心して参加できる状況が整えられています。全国各地の自治体と契約して進めていますが、鹿児島県ではすでに伊佐市、日置市など7市町が開始し、準備中の自治体もあります。
自分の闘病の情報を子や孫の時代に役立ててほしいと考えるのと同様に、上手に匿名化とし、現在に生きる私たちの健康情報を、子や孫の世代に役立ててほしいと思います。このような活動が正確に認知され、貴重な社会資源として保存・活用されることを祈ります。
こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)