こども救急箱

vol.271 世界HTLVデー

―正しい知識 身につけて―

南日本新聞掲載日付 2019/11/05

 11月10日は「世界HTLVデー」です。昨年制定され、県と厚生労働省が鹿児島中央駅で街頭キャンペーンやシンポジウムも開催しましたが、ご存知でしょうか。

 HTLVとは、ヒトT細胞白血病ウイルスのことです。1970年代に九州地方出身者にT細胞白血病が多いことから、原因ウイルスとして見つかりました。ウイルスに感染しているひとをキャリアと言いますが、総てのキャリアが病気になるわけではありません。鹿児島にもキャリアが多く、当時風土病と考えられていましたが、現在では日本全体にいることが分かっており、国を挙げて2010年から対策が行われてきています。世界的にも対策が必要であることが認識され、多くの人々に知ってもらうために「世界HTLVデー」が制定されました。

 現在、次の世代に繋げないように有効な感染対策として母子感染対策があります。母乳を介してこどもに感染するため、母乳を制限し、人工栄養での育児が必要になってきます。人工栄養で育てた母親の約3人に1人が困難を感じていました。その理由で最も多かったのが「周囲の理解がない」でした。「母乳で育てた方が病気にならないよ」、「母乳がでないの?」と親切心で声掛けをしてくれていると思いますが、母乳をあげたくても止めている母親は責められているように感じてしまいます。毎回、母乳制限をしないといけないことを説明するのも大変です。また、短期で断乳する際に「そんなに泣くならあげたらいいのに」と言われて、心が折れる方もいらっしゃいます。

 「世界HTLVデー」を機に多くの人が正しい知識を持つことで、キャリアの方が少しでも困難ストレスなく子育てができ、次世代でのHTLV撲滅につながるきっかけになればと思います。

こども医療ネットワーク会員
根路銘安仁(鹿児島大学医学部保健学科)