こども救急箱

vol.273 インフルエンザワクチン

―見解の相違の壁―

南日本新聞掲載日付 2020/01/07

 小児科を受診すると予防接種、とりわけインフルエンザワクチンの重要性を強調されると思います。あんしん救急箱でもよく取りあげています。どうして小児科医はこの予防接種を勧めるのかと思ったことはありませんか。

 乳幼児期の定期接種(公費負担)に指定されているワクチンは、役所からの通知も届き、健診のたびに小児科医や保健師さんから説明されますね。インフルエンザワクチンは原則的に公費負担はなく、任意接種に区分されています。予防接種の説明書をよく読むと、「定期接種と任意接種に医学的重要性に違いはありません」と記載されていますが、少し違いを感じられているかと推測します。

 よく報道されるのですが、インフルエンザワクチンは発症予防ではなく、重症化予防のワクチンとされています。医療界では脳炎・脳症等で生命に関わる症状は予防接種でしか防げないと言われていますし、病院で働く小児科医にはインフルエンザで入院してくる患者さんの大部分は未接種だと感じられるのです。

 予防接種をしてもインフルエンザにかかったから効果がなかったと思う人は多いと思います。また、予防接種はしない、と断言する保護者もおられます。小児科医と保護者の見解の相違は、得られる情報の違いによるのではないでしょうか。

 立場が違えば見解も異なるのは仕方がないのですが、小児が予防接種を受けるかどうかは子ども自身が決めているのではないという点で、小児科医としてはなかなか譲れない議論になります。

 情報保護の観点から実際に重症化した患者さんの情報は公開されないため、一般の方々がインフルエンザワクチンの重要性を身近に考えるための情報は限られています。玉石混交のネット情報ではなく、事実に基づいた正確な情報で判断できるように、匿名化した患者情報が提供されてもよいように思います。

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)