こども救急箱

vol.274 「悪くなったら」という助言

―患者と認識の共有を―

南日本新聞掲載日付 2020/02/04

 小さな子どもの病気の中には急速に変化するものがあります。医療機関を受診したときや電話相談(♯8000事業)のときにも、「今は様子を見ていいですが、悪くなるようなら再診あるいは受診を」というアドバイスがよくあります。このような場合、医療者の理解と保護者の理解が一致しておらず、結果として、こんなに悪くなるまでなぜ来なかったのだろうかと医師が感じることもあります。

 保護者にとって「悪くなったら」の具体例がなければ判断できないことも容易に考えられますし、何かと忙しい外来、特に急病センターのような時間外診療の場で詳細に説明または質問できない場面も想像できます。

 患者さんと医療者側の行き違いの例として「風邪だと思います」というやりとりがあげられます。患者さんは基本的に病名で考えますので、経過観察を経て他の病名を告げられた際に「今まで説明がなかった」と感じることも多いと思います。一方、医師は症状や検査結果からいろいろな可能性を考えますが、病名だけを念頭に説明しているのではありません。小児科医にとっては、「(病名はまだ判明しませんが)重くないので自宅で過ごせますね」という意味に近いのではないでしょうか。

 患者さんの「大丈夫でしょうか」という質問に対しては「今は大丈夫です」とは答えられるのですが、「ずっと大丈夫です」と言える医師はどこにもいません。がん検診で異常がない時、今までがんはなかったことを示していますが、今後がんが発生しないことを示すものではないのと同じです。

 インフルエンザも検査キットですぐにわかる時代になりましたが、多くの病気は経過を見ながら判断せざるを得ません。早く病名を知りたい患者と、さまざまな可能性を考慮する医療者がお互いの立場を理解した上で、円滑なコミュニケーションが進むことを期待しています。

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)