こども救急箱

vol.281 明るい話題に注目

―コロナ禍 心に余裕を―

南日本新聞掲載日付 2020/09/01

先日の本紙朝刊の1面に、「県児童虐待通告5年で1.5倍」という記事が出ました。市民の関心が高まり多くの通報につながっていると分析結果も紹介されました。身体的虐待の場合には、何らかの形で小児科や救急科などの医療機関に受診すると推測しますが、医療現場で15倍の実感はないように思います。実際には2019年1,572人のうち、心理的虐待1,098人で最も多かったようです。

児童相談所、警察をはじめ関連機関の協力と整備の結果が現れてきつつあると思いますが、特に心理的虐待は言葉の暴力や差別などが当たりますが、目に見えないので対策は啓発活動が中心で、すぐには結果が出ないのが現実です。特に今年はコロナ禍で種々の制限が社会全体にかかり、鬱屈感があり何か余裕がない状況だと思います。余裕がなければ自分のことで精一杯ですし、自粛ムードの中で家庭内での問題も増えていると報道されています。早く社会全体に余裕が返ってくることが求められますね。

同じ日に急性白血病を克服して競技に復帰した競泳女子の池江選手の活躍がありました。急性白血病は小児がんの中でも最も多い病気ですが、いわゆる子どもの難病と言われる小児慢性特定疾病医療費助成制度の指定疾病は762もあります。これは世界に類を見ない制度で、誰でも最先端の医療が最小限の負担で受けられます。

ワクチンの無料化も進み、生後2か月からワクチンをたくさん受けてもらっています。まだまだ整備が必要と小児科医は運動を継続していますが、国に余裕がない時代には整備はできなかったので、ずいぶん余裕が出てきなと考えることもできます。

明るい記事に注目できる心の余裕が、心理的虐待の対策につながらないかなあと思います。

 

こども医療ネットワーク理事長

 河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)