皆さんは「妊娠中に猫を飼ってはいけない」と耳にしたことがあるかと思います。これはトキソプラズマ感染症を予防するためです。トキソプラズマとは寄生虫の一種で、加熱が不十分な食肉や猫のふん便に含まれており、ヒトが経口摂取することにより感染します。通常、トキソプラズマに感染しても多くは症状がありませんが、妊婦と胎児は違います。
妊婦が初めてトキソプラズマに感染すると母から胎児への垂直感染により死産や流産の原因になります。そして、生まれてきた赤ちゃんは先天性トキソプラズマ感染症にかかっている可能性があります。先天性トキソプラズマ感染症には網脈絡膜炎、脳内石灰化、水頭症の3主徴(代表的な症状)のほか、小眼球症、小脳症、肝脾腫、黄疸など多彩な症状があり、新生児期に出現するものから、精神運動発達遅延、てんかん、視力障害など乳幼児期以後に明らかになるものもあります。
このように神経学的・眼科的な後遺症が残ることがあるにも関わらず、現時点では保険診療で認められた治療法はありません。したがって、先天性トキソプラズマ感染症は予防が大切です。
具体的には、肉は十分に加熱してから食べるようにし、野菜や果物はよく洗うか皮をむいて食べてください。生肉や野菜、果物を扱った調理器具、食器も洗剤と温水で洗浄するのがいいです。
ガーデニングなどで土を触る際は手袋を着用し、土を触った後は手洗いを徹底しましょう。子どもがいる場合には、一緒に手洗いし、手指衛生の重要性を教育することが重要です。
妊娠後に新しく猫を飼い始めないようにし、従来から飼っている猫はできるだけ部屋飼いにし、猫のトイレの世話は妊婦以外の人が行うようにしましょう。
こども医療ネットワーク会員
中江広治(鹿児島大学病院小児科)