今回はアデノウイルス感染症の一つである咽頭結膜熱がテーマです。38度以上の高熱や喉の痛み、結膜炎といった症状を引き起こします。「プール熱」と呼ばれることもあり、そちらの名前で聞き覚えがあるかもしれません。
「地域でプール熱がはやっているので、学校のプールを休ませるべきですよね」「高い熱が出てプール熱と診断されました。プールに一切行ってないのに、おかしくないですか」
こんな質問を受けたことがありますが、少し誤解があるようです。昔は、塩素濃度が低いプールで水中のウイルスが目の結膜を介して感染したり、汚染された共用タオルで目をこすって感染したりすることがありました。「プールを場とした集団感染」を起こしたので、「プール熱」の別名がついたのです。
今では、適切な塩素消毒やタオルの個別使用により、集団感染の報告はめったにありません。なのに名前だけ「プール」が残ってしまいました。ぬれタオルならぬ、ぬれぎぬと言えるかもしれませんね。
先日も人気アーティストの映像作品が議論を呼びましたが、現代の文明社会で偏見や差別は許されません。1918年に世界的大流行を起こしたインフルエンザ「スペイン風邪」をはじめ、15世紀にヨーロッパで流行した梅毒「ナポリ病」、同じく梅毒「フランス病」、エムポックスウイルス感染症「サル痘」など、固有名詞が冠された病名は数多くありますが、世界保健機関(WHO)は2015年からヒトの新興感染症に地名や動物の名称を使用しないことを推奨しています。
アデノウイルスは感染力が強く、家庭内での感染拡大に注意が必要です。対策はまず手洗いが大切です。状況によって、よく触る場所の消毒なども加えます。学校や集団保育施設における咽頭結膜熱の出席停止期間は「主要症状が消退した後2日を経過するまで」ですが、診断した医師の指示に従いましょう。
こども医療ネットワーク会員
山遠 剛(県民健康プラザ鹿屋医療センター小児科)