こども救急箱

vol.258 風邪と抗菌薬

―細菌由来の症状に処方―

南日本新聞掲載日付 2018/08/07

 小児科を受診する患者の症状で最も多いのは、発熱、鼻水、せきなどの風邪症状です。子どもが熱を出し、ぐったりしていると、家族はとても心配することと思います。
 家族から「心配なので抗菌薬(抗生物質)をもらえませんか」「気管支炎や肺炎にならないように、予防的に抗菌薬をください」という申し出があります。「風邪で抗菌薬を飲んだが、良くならない」という声をいただくこともあります。
 風邪の病原体は、主にウイルスと細菌に分けられます。鼻、のど、気管など気道の感染症が多いですが、嘔吐(おうと)、下痢などの胃腸炎症状を起こすこともあります。風邪の約90%はウイルスが原因です。抗菌薬は細菌には効果がありますが、ウイルスには効果がありません。抗菌薬は副作用として、下痢や薬疹、肝機能障害が出ることがあります。
 不必要な抗菌薬使用は、抗菌薬に抵抗性を持つ薬剤耐性菌を増やし、それによる感染症の増加が国際的に問題となっています。米国では、処方された抗菌薬の約30%が不必要だったとの報告もあり、日本でも抗菌薬の不必要な使用が一定の割合であると推測されます。
 しかし、新生児期や乳幼児期の感染症(インフルエンザ菌、肺炎球菌、A群溶連菌など)、学童期に多いマイコプラズマ感染症では、抗菌薬が必要になる場合もあります。小児科医は症状と、診察、検査結果から抗菌薬が必要かどうかを判断しています。
 抗菌薬が必要な状況を減らすことも重要です。手洗い(流水と石けんでの手指衛生)、予防接種、せきエチケット(マスクの着用やせき・くしゃみの際に口と鼻を覆い、顔を他の人に向けない)、うがいなど、普段から感染の予防を心がけることが大事です。

 

こども医療ネットワーク会員
上野健太郎(鹿児島大学病院小児診療センター)