こども救急箱

vol.272 液体ミルク

―調乳不要、災害時に重宝―

南日本新聞掲載日付 2019/12/03

 赤ちゃんの栄養方法で、母乳かミルクかということはよく問題になります。このコラムでも取り上げたように、母乳不足や病気のためにミルクで育てる必要があるお母さんもたくさんいます。この場合のミルクというのは、一般的に粉ミルクのことで、お湯で溶かして準備すること、つまり調乳が必要です。

 母乳とミルクを比較して何が異なるかを議論すると、鉄分の量とかタンパク質の種類の違いが示されるのですが、もっとも現実的なのは調乳の手間があるかどうかです。母乳の場合にはその場で授乳ができますが、ミルクの場合には一度沸騰させて70℃以上のお湯で溶かすことと、清潔な容器の準備が必要になります。そのため、地震や台風などの災害発生時の避難場所ではとても大変です。

 2016年に発生した熊本地震のときに、フィンランドから液体ミルクが支援物質として送られてきました。調乳の手間が省略できるので重宝したという話を聞きましたが、日本では製造販売されていませんでした。各方面からの要請によって、2019年3月から液体ミルクが日本でも販売されるようになりました。今後各地で災害に備えて備蓄されることも予想されています。

 調乳の必要がなく、常温保存でき、そのまま飲ませることができる液体ミルクですが、日本小児科学会ではいくつかの注意点をあげて周知を図っていますので、その内容を紹介いたします。(1)高温下で保存しない、(2)有効期限と容器破損の有無の確認が必要、(3)開封後はすぐに使用し、飲み残しは廃棄すること、の3点です。

 非常に便利な液体ミルクですが、避難所等でも安心して母乳が与えられる環境を整備することも同時に重要なことだと思います。

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児医療センター)

vol.271 世界HTLVデー

―正しい知識 身につけて―

南日本新聞掲載日付 2019/11/05

 11月10日は「世界HTLVデー」です。昨年制定され、県と厚生労働省が鹿児島中央駅で街頭キャンペーンやシンポジウムも開催しましたが、ご存知でしょうか。

 HTLVとは、ヒトT細胞白血病ウイルスのことです。1970年代に九州地方出身者にT細胞白血病が多いことから、原因ウイルスとして見つかりました。ウイルスに感染しているひとをキャリアと言いますが、総てのキャリアが病気になるわけではありません。鹿児島にもキャリアが多く、当時風土病と考えられていましたが、現在では日本全体にいることが分かっており、国を挙げて2010年から対策が行われてきています。世界的にも対策が必要であることが認識され、多くの人々に知ってもらうために「世界HTLVデー」が制定されました。

 現在、次の世代に繋げないように有効な感染対策として母子感染対策があります。母乳を介してこどもに感染するため、母乳を制限し、人工栄養での育児が必要になってきます。人工栄養で育てた母親の約3人に1人が困難を感じていました。その理由で最も多かったのが「周囲の理解がない」でした。「母乳で育てた方が病気にならないよ」、「母乳がでないの?」と親切心で声掛けをしてくれていると思いますが、母乳をあげたくても止めている母親は責められているように感じてしまいます。毎回、母乳制限をしないといけないことを説明するのも大変です。また、短期で断乳する際に「そんなに泣くならあげたらいいのに」と言われて、心が折れる方もいらっしゃいます。

 「世界HTLVデー」を機に多くの人が正しい知識を持つことで、キャリアの方が少しでも困難ストレスなく子育てができ、次世代でのHTLV撲滅につながるきっかけになればと思います。

こども医療ネットワーク会員
根路銘安仁(鹿児島大学医学部保健学科)

vol.270 成長曲線の作成

-健康状態見守る手段―

南日本新聞掲載日付 2019/10/01

 学校健診で成長曲線を用いた評価が開始され、病院受診を勧められたお子さんもいるかと思います。どのような時に詳しい検査を勧められているのでしょうか。

 学校で使う成長曲線は、全体を100として小さい方から何番目になるかを示すパーセンタイル値で表示されたグラフです。「3パーセンタイルの人」は「100人のうち小さい方から数えて3番目」ということです。一方、病院で使用する成長曲線は、日本人の平均からどのくらい離れているかを示す「標準偏差」(SD)で表示されたグラフを使います。-2.0SDがおおよそ2.3%タイルと同等の身長です。医学的には-2.0SD以下を低身長、+2.0SD以上を高身長と定義します。体重は身長から計算される肥満度で肥満から痩身(やせ)を評価します。

 各学期に測定された身長・体重は成長曲線にプロットされ、過去1年間で1曲線またぐような成長率(身長の伸び)の低下・急増、低身長(3パーセンタイル以下)や高身長(97パーセンタイル以上)の時に、また体重は急激な増減や肥満や痩せの時に病院受診が勧められます。

 身長の異常からは、成長ホルモン以外にも甲状腺や性腺ホルモンの異常を含む種々の病気が隠れている可能性を検討します。肥満は早期介入で糖尿病や高脂血症・高血圧などを予防できる可能性もあるし、ホルモン異常による場合もあります。痩せは甲状腺ホルモンの異常や女性に多い思春期やせ症が隠れている場合もあり精査が必要です。

 病院受診を勧められたお子さん全てに病気が隠れているわけではないので、病院受診をして精査が必要かどうか判断してもらいたいと思います。

 就学前のお子さんも含め、成長曲線作成は子どもたちの健やかな成長を見守る一つの手段です。

こども医療ネットワーク会員
柿本令奈(鹿児島大学病院小児医療センター)

vol.269 母子手帳などの医療情報

―次世代のため保存活用―

南日本新聞掲載日付 2019/09/03

 病気の治療成績は時代とともに向上していますが、普通は「医学の進歩によって」と説明されます。治療はどのように進歩してきたのでしょうか。実はそれぞれの時代に治療を受けた患者さんの情報を蓄積・分析し、次の世代の人々の治療が開発されています。世代間協力です。

 自分が子どものときの健康情報と、老人になってからの病気の情報が結びつけられると、どのように予防すべきかがわかり、次の世代は病気の予防ができるかもしれません。

 小児科医は母子手帳を見る機会が多いのですが、その情報はその後どのように利用されているかあまり考えていませんでした。また、毎年実施する学校健診の記録は、個人には渡されますが、社会としてうまく利用できていなかったようです。

 法律に基づいて実施されている母子手帳交付や学校健診のデータが無駄にならないように、個人情報を保護しながら、将来の自分あるいは次の世代に活用できるよう整理保存する活動が始まっています。貴重なデータを生涯にわたる健康情報(ライフコースデータ)としての利用を考える京都大学の川上浩司教授らによる研究です。

 最新の個人情報保護法にも臨床研究に関する法律や指針にも対応し、行政と保護者が安心して参加できる状況が整えられています。全国各地の自治体と契約して進めていますが、鹿児島県ではすでに伊佐市、日置市など7市町が開始し、準備中の自治体もあります。

 自分の闘病の情報を子や孫の時代に役立ててほしいと考えるのと同様に、上手に匿名化とし、現在に生きる私たちの健康情報を、子や孫の世代に役立ててほしいと思います。このような活動が正確に認知され、貴重な社会資源として保存・活用されることを祈ります。

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.268 食物経口負荷試験

―アレルギー病状見極め―

南日本新聞掲載日付 2019/08/06

 (食物)=食べ物を、(経口)=口から食べて、(負荷)=体に入れてみる、(試験)=検査、という意味です。食物経口負荷試験は、食物アレルギーと診断されていたり疑われたりしている方に行われる検査です。ただ食べ物を食べるだけなのですが、加熱方法、食べる量などを医師が問診や検査結果から慎重に考えます。また、実際にアレルギーがあると食べた後に症状が出てしまうことがあるので、その時の治療の準備を万全にして検査します。そのため医療機関で行う必要があります。

 なぜアレルギーがあるかもしれないものをわざわざ食べてみるのでしょうか?食物アレルギーがある食べ物を食べないようにすることを、「除去(じょきょ)」と言います。

除去にもいくつか種類があり、大きく完全除去と不完全除去に分かれます。完全除去は、どんな調理法であってもごく少ない量であってもアレルギーのある食べ物を除去することです。不完全除去は、しっかり加熱してあれば食べることが出来る、少量であれば食べることができる、という場合に、症状が出ない食べ方に限って食べることです。

 食物アレルギーは、疑わしいものを全て除去してしまえばアレルギー症状が出ることはありませんが、栄養面やいろいろなメニュー、味わいを楽しむことなどが制限されてしまいます。そのため「必要最低限の除去」を行うように推奨されています。

 検査でアレルギーの数値が上がっていた、一度食べた時にじんま疹が出た、なんとなく心配だから、など様々な理由で完全除去している方がいます。また、以前アレルギーがあっても、年齢とともに症状が軽くなったり治ったりする方もいます。それぞれの方のアレルギーの病状を見極め、必要最低限の除去につなげるために、食物経口負荷試験は必要なのです。

こども医療ネットワーク会員
今給黎亮(鹿児島大学病院小児診療センター)