こども救急箱

vol.320 1型糖尿病

―小児期の発症、正しく理解を―

南日本新聞掲載日付 2023/12/22

「糖尿病」という病名を聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。「食べ過ぎや運動不足の人がなる病気」「生活習慣病」「大人の病気」―。こんなイメージを持つ方が少なからずいらっしゃるのではないかと思います。しかし食べ過ぎや運動不足が原因ではない、生活習慣病でもない糖尿病が存在します。

糖尿病には大まかに1型と2型がありますが、小児期に発症する糖尿病の多くは1型です。1型糖尿病は何らかのきっかけにより、本来起きるはずのない免疫反応が起きてしまい膵臓の細胞が破壊され、血糖を下げるホルモンであるインスリンが急速かつ不可逆的に低下し、慢性的に高血糖となる病気です。

病院を受診するきっかけとなる症状として多いのが、強いのどの渇きがありたくさん水を飲む、尿がたくさん出る、トイレに行く回数が増える、体重が減るなどです。ひどい場合は意識障害から救急搬送され、診断されることがあります。自覚症状がなくても学校や幼稚園、保育所での検尿で尿糖陽性となり発見されることもあります。

治療の基本は不足したインスリンを注射で補うインスリン療法です。運動はインスリンの効きをよくしたり、食後の高血糖を抑制したりできるので積極的に行います。

意外に思われるかもしれませんが、食事を制限することはありません。子どもの糖尿病のコントロール目標の一つに『正常な成長』もあるので、各年齢のエネルギー必要量をバランスよくしっかり摂取します。インスリンを補充すれば食べたいものは何でも食べられます。

1型糖尿病が正しく理解されず、傷ついたことがあるという患者さんの声を耳にすることがあります。少しでも多くの方が知ってくださることを願っています。

 

こども医療ネットワーク会員

関 祐子(鹿児島大学病院小児科)

vol.319 炎症性腸疾患

―長引く胃腸炎に注意―

南日本新聞掲載日付 2023/11/24

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease)と総称される病気が子どもにもあり、症状は腹痛、下痢、血便、発熱などです。IBDは、腸管に慢性的な炎症を起こす原因不明の病気で、一般に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2疾患からなります。根治治療はなく、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性疾患です。日本人のIBD患者は成人・小児ともに増加傾向で、現在潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約7万人と推定されています。小児は成人と比較し、治療に難渋することが少なくありません。また、6歳未満発症のIBDは「超早期発症型炎症性腸疾患」と言われ、原発性免疫不全症が背景にあることもあります。

潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症が起こる病気です。対してクローン病は、消化管(口~肛門まで)のどこの部位にも炎症が起こり得ます。クローン病では腹部症状のないこともあり、体重増加不良や原因不明の発熱の精査で発見されることもあります。診断のために内視鏡検査をします。治療は、クローン病では栄養療法が第一選択です。エレンタールという成分栄養剤を内服します。潰瘍性大腸炎は、基本的に栄養療法は必要ありません。薬物治療は、どちらも5-ASA(アミノサリチル酸)製剤や免疫抑制剤、ステロイド全身投与、生物学的製剤などがあります。

現在の医療では根治は難しいですが、ここ数年で新しい薬剤がどんどん出てきており、昔と比較し、患者さんの生活の質は向上してきています。また、便検査では便中カルプロテクチンという検査が保険適応となり、IBDの診断補助や活動性評価に役立っています。胃腸炎だと思っても症状が長引く時は、まずは近くの小児科を受診してください。

 

こども医療ネットワーク会員

中村 陽(鹿児島大学病院小児科)

vol.318 食事中の誤嚥防ぐ

―成長に合わせ工夫を―

南日本新聞掲載日付 2023/10/27

子どもが食べ物を喉に詰まらせて窒息する事故が相次ぎ、不安に思っている保護者の方も多いのではないでしょうか。食べ物が食道ではなく、誤って気道に入ってしまう「誤嚥」は、子どもの窒息事故を引き起こす大きな原因の一つです。

誤嚥を防ぐには子どもの「食べる力」を理解する必要があります。離乳食が始まる5、6ヶ月頃は、かんだりつぶしたりはできず、離乳食を飲み込みます。徐々に舌や歯茎でかんだりつぶしたりできるようになり、歯が生えてくると前歯でのかじり取りや奥歯でのすりつぶしができるようになります。歯が生えそろった3歳頃でも、大人と比べてかんだり飲み込んだりする力が弱く、丸飲みにすることで窒息につながる可能性があります。市販品の対象月齢はあくまで目安であり、その子に合った固さや形態か、与える前にもう一度考える必要があります。

「窒息を起こしやすい食品」は、与え方には注意が必要です。①ブドウやプチトマトなど丸くてつるっとしたものは4分の1以下に切ってから与える②唾液を吸収して飲み込みにくくなるパンやサツマイモは、同時に水分を取る③肉やリンゴなどの固くかみ切りにくいものは小さく切ったり加熱をしたりする―など食べやすくする工夫をしましょう。

「食事の時の行動」も大切です。一口の量を多くしない、口の中のものを飲み込んでから次を与えることが必要です。歩きながら食べたり、走り回って食べたり、寝転んだまま食べたりするのはよくありません。口の中に食品がある時はびっくりさせないことや、きょうだいの上の子が乳幼児に危険な食品を与えてしまわないように環境を整えることも大切です。

窒息を起こしうる原因を知って減らす工夫をし、事故を予防しましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

榎木 美幸(鹿児島県立大島病院小児科)

vol.317 食物アレルギー予防

―乳児期の皮膚炎注意―

南日本新聞掲載日付 2023/09/29

子どもに多い鶏卵や乳・小麦のアレルギーは、赤ちゃんの頃の皮膚をきれいに保ち、それらの食材の摂取を不必要に遅らせないことで予防できる可能性が高いことが分かってきています。逆に、生後間もない時期にアトピー性皮膚炎などの皮膚炎があると、食物アレルギーになりやすいことも明らかになっています。特に生後6ヶ月までが重要で、その時期に赤みや浸出液を伴う皮膚炎を認める場合は、早めに治療をすることが必要です。

治療には、多くの場合ステロイド外用剤が使われます。ステロイド外用剤については、根拠のない否定的な情報がインターネットなどで氾濫していますが、適切な部位に適切なランク(強さ)のものを使用すれば副作用はほとんどみられません。アトピー性皮膚炎の外用薬では最近、ステロイド外用剤以外で有効な外用剤も開発されましたが、生後6ヶ月未満には現時点では適応するものがありません。生後間もない時期に皮膚炎がみられた場合には、ステロイド外用剤を主とした適切な治療を行い、離乳食開始時期に鶏卵や乳製品の摂取をあえて遅らせないことが重要です。

 とはいえ、以上のことを行っても食物アレルギーを発症するお子さんは一定数存在します。一部の重度食物アレルギーを除いて、低年齢からアレルギー食材を少しずつ摂取することで食物アレルギーは克服することができる可能性があります。

鶏卵や乳・小麦など、除去することが生活の質に大きく関わる食材は、積極的に治したいものです。個々の範囲で食べられる量を摂取することが、食物アレルギー克服への近道です。食べられる量を知るには、専門の医療機関で食物経口負荷試験を受けることをお勧めします。

 

こども医療ネットワーク会員

立元 千帆(あおぞら小児科)

vol.316 腸重積

―泣き方や血便に注意を―

南日本新聞掲載日付 2023/08/25

腸重積とは、何かの原因で腸管が腸管にはまり込むことで腸の血流が悪くなり、最終的には腸閉塞(腸が動かなくなる)を起こす病気です。典型的には生後6ヶ月から3歳までの乳幼児によく起こりますが、その他の年齢でも起こります。

腸重積の最も一般的な症状は、突然の腹痛と嘔吐です。痛みが強く、普通の泣き方とは違う激しい泣き方をすることがあります。重積状態が自然に治り、一時的に比較的元気になることがあります。しかし、症状が進むと痛みは持続的になり、やがて疲れてぐったりしてきます。

イチゴゼリー状の血便(血液と粘液の混じった便)がみられることもあるので、便の状態を確認することが大切です。腹痛・嘔吐・血便が3大主要徴候ですが、全てそろうことは珍しく、ウイルス性の胃腸炎と区別がつきにくい場合もあります。腹部の超音波(エコー)検査は腸重積の診断に役立ちます。

治療としては、腸に空気や水溶性の造影剤を用いた高圧かん腸をかけることで、はまり込んだ腸を押し戻します。これを非観血的整復と言いますが、腸のはまり方次第ではうまくいかないこともあります。うまく整復できなかった場合や、既に腸管穿孔(腸管が破れて穴があいた状態)を伴う場合は手術が必要となります。非常に年少の小児と年長児では、腸重積の原因となるポリープ、 メッケル憩室、リンパ腫などがみつかることがあります。

発症から時間がたつにつれ、非観血的整復の成功率が下がってしまいます。嘔吐を伴って激しく泣く時、血便がある時は早めに小児科を受診するようにしましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

下園 翼(鹿児島大学病院小児科)