こども救急箱

vol.290 コロナと思ったら

―可能な限り日中の検査を―

南日本新聞掲載日付 2021/06/01

小児科では、さまざまな迅速検査キットが使われます。主なものは、インフルエンザ、アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどで、現在流行している新型コロナウイルス感染症でも、PCR検査の代わりに抗原検査を行うことがあります。

PCR検査は、ウイルスの遺伝子を試薬で増幅し、感染の有無を判断する方法です。ウイルスが少ない場合でも診断しやすいという利点がありますが、特殊な検査装置や訓練を受けた検査技師の協力が必要になります。抗原検査は、ウイルスと試薬を直接反応させて色付けし、感染の有無を判断する方法です。簡便に検査できますが、ウイルス量が少ない状態だと誤って陰性と判断する可能性もあります。これが偽陰性と呼ばれます。

抗原検査での偽陰性(PCR検査で陽性の方が、抗原検査で陰性と判定される確率)は、インフルエンザ 6%、RSウイルス 15%、新型コロナウイルス24%と言われています(イムノエース®各迅速検査キットの添付文書より)。新型コロナウイルスでは、本当の患者さんの4人に1人は、抗原検査で陰性になる計算ですので、抗原検査が陰性でも、最終的にはPCR検査が必要です。

実際の外来で困るのは、「検査は陰性でした。だけど、感染していないとは言い切れません。」としか説明できない場合です。日中でしたら、抗体検査、PCR検査などの他の特殊な検査を選択できますが、夜間の外来では、簡便な検査しかできません。遠方から来院された患者さんに、不十分な検査・説明しかできないことは、医師として非常に心苦しいです。

周囲の流行や患者さんとの接触があり、特定の感染症を疑った際には、日中のうちに医療機関へ相談、受診をしていただければと思います。

 

こども医療ネットワーク会員

髙橋宜宏(鹿児島大学病院小児科)

vol.289 免疫不全症

―早期の兆候発見が重要―

南日本新聞掲載日付 2021/05/04

お子さんが保育園に通い始めたときに、ひっきりなしにかぜを引くことは、よく経験されることだと思います。そして、「うちの子は他の子に比べ、熱がよくでるのではないか、身体が弱いのではないか」と心配になる保護者の方もいます。

私たちの身体は、病原体や毒素が体内に侵入して感染症を起こしたときに、それらを排除するための機能を備えています。そして、感染症が治った後は、同じ病原体の感染症にかからなくなったり、かかっても軽症で済んだりする仕組みがあります。それらを「免疫」と呼びます。免疫は生まれつき完成されているわけではなく、成長や感染を繰り返すことで成熟していきます。そのため、乳幼児期が最もかぜを引きやすく、症状も長引くことがあります。

乳幼児期の「かぜをよく引く」は、ほとんどが問題ありませんが、それに加え「重症化する」「発育不良を伴う」「毒性の弱い病原体による感染症にかかる」などがみられる場合は、免疫が十分に機能できていない「免疫不全症」にかかっている可能性があります。生まれつきの原因で起こる免疫不全症は「原発性免疫不全症」と呼ばれ、非常にまれな疾患ですが、免疫に関わる細胞などで分類され、300以上もの種類があるため、診断や治療に慎重な判断が求められます。

最も重症の原発性免疫不全症として重症複合免疫不全症(SCID)があります。早期に診断できないと感染症のため乳児期に死亡してしまいます。米国で2008年、SCIDの新生児スクリーニング検査が開始され、早期発見の有効性が示されました。日本でも少しずつスクリーニング体制が広がりつつあります。

厚生労働省の調査研究班がまとめた、「原発性免疫不全を疑う10の徴候」(http://pidj.rcai.riken.jp//10warning_signs.html)というホームぺージもありますので、参考にしてみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

西川拓朗(鹿児島大学病院小児科)

vol.288 ワクチンの重要性

―周りの人も守るために―

南日本新聞掲載日付 2021/04/06

今、コロナウイルスワクチンの話題でもちきりですね。予防接種は、多くの人々がかかってひどく苦しんだ経験のある感染症に対して、特に飲み薬もない感染症からどうやって人々を守ろうか考えた結果生み出された方法です。ワクチンによって程度の差はありますが、副作用の頻度は極めて低く、その感染症にかかりにくくする効果や、かかっても重症化を防ぐ効果が科学的に認められているものが使われています。

予防接種は、自分にだけメリットがあるわけではありません。自分がかからないことで、周りの人を守るというメリットもあります。インフルエンザワクチンを集団接種していた時代は、インフルエンザでなくなるお年寄りの数が少なかったことを示す疫学調査があります。残念ながら、近年風疹の流行が時々ありますが、流行の翌年に、生まれつきとても重い病気をいくつも引き起こす先天性風疹症候群の赤ちゃんが増加するデータもあります。

自分がその感染症にかかりやすいかどうかは、血液中の抗体価という値を調べるとある程度正確に判断できます。例えば、風疹の抗体価は、1962(昭和37)年4月2日から1979(昭和54)年4月1日生まれの男性では低いことがわかっていて、この年齢の男性には風疹ワクチンの定期接種がなかったためです。

近年はこれらワクチン未接種の大人を中心として風疹が流行しています。そこで、妊娠を希望する女性やその同居者だけでなく、2022年2月までは前述した年齢層の男性に対しても、風疹の抗体検査とワクチン接種の助成を行う事業が各市町村で行われています。

この機会に、様々な感染症から自分を守ることはもちろん、今周りにいる人、これから生まれてくる人たちのためにも、新型コロナウイルス以外の必要な予防接種を受けることも検討してください。

 

こども医療ネットワーク会員

楠生 亮(鹿児島市立病院小児科)

vol.287 子どもの「おもらし」

―正しい排尿習慣が重要―

南日本新聞掲載日付 2021/03/02

泌尿器科でこどもを専門に診療をしていると、“おねしょ”(夜尿症)と並んで多くの相談があるのが、幼児、学童の昼間の“おもらし”です。これは“おねしょ”とは異なり、尿意を感じて自分でトイレで排尿できる年齢になっても日中におしっこを漏らしてしまうことで、昼間尿失禁といいます。日本の小学生を対象にした研究では、昼間尿失禁の頻度は6%と報告されています。

昼間尿失禁は学校生活でいじめやからかいの対象となることがあり、このような心的ストレスは不登校の原因となるだけでなく、こどもの心的発達障害の一因にもなり得ます。また、昼間尿失禁の多くは成長と共に改善しますが、まれに腎臓や膀胱の生まれつきの疾患が原因となっていることがあり、その場合は手術が必要なこともあります。一般的には4〜5歳までにトイレで排尿できるようになると考えられているので、それ以降も続く“おもらし”は受診をお勧めしています。

昼間尿失禁の診察では、排尿・排便習慣や生活習慣を詳しく聞き、記録をつけてもらいます。便秘により直腸にたまった便が昼間尿失禁を誘発させることがあるので、便秘があればまずは便秘の治療から行います。また、トイレでの排尿の間隔が開きすぎるなどの排尿習慣の異常がある場合は、2〜3時間ごとに時間を決めて排尿する定時排尿を指導します。

こうすることで、こどもが自らの尿意に気付くことを促します。このような行動療法でも改善しない場合は内服薬での治療を検討します。治療を行ってもすぐには改善せずに、ある程度こどもの成長を待たざるを得ないこともあります。臭いや衣服のぬれで困らないようにパッドなどを使うことも有効で、昼間尿失禁の不安を少しでもやわらげることがこどものストレス軽減に役立ちます。

 

こども医療ネットワーク会員

井手迫俊彦(済生会川内病院泌尿器科・小児泌尿器科)

vol.286 運動が苦手

―神経筋疾患の可能性も―

南日本新聞掲載日付 2021/02/02

野球にサッカー、バスケットボール、ラグビーなど、最近は世界で活躍する日本人のプロスポーツ選手も珍しくなくなってきました。そんな姿に憧れて「自分もあんな風になりたい」と運動を頑張っているお子さんもいるかと思います。可能性は無限大ですから、精一杯頑張ってほしいと思っています。

でも一方で、一生懸命にやっているのに、周りと比べて走ったりジャンプしたりすることが極端にできない、あるいは転びやすい、疲れやすい、といったことで悩んでしまっているお子さんや、また小さい頃から周りに比べて運動面の発達がゆっくりなお子さんもいます。そんな中に神経筋疾患という病気が隠れていることがあります。

あまり聞き慣れない病名かと思いますが、神経筋疾患とは脳や脊髄、末梢神経、筋肉などに異常が生じ、運動機能に影響を及ぼす病気のことを言います。いろいろな病気があるので一概には言えませんが、多くは少しずつ運動機能が失われていきます。それ以外にも呼吸や心臓の働きにも影響が出る場合もあります。

私たちの病院を受診されたお子さんのご家族の中には、「運動が苦手な子」と思って病院に相談したことは今までなかった、という声を時々聞くことがあります。診断に至ることで運動機能に関連する不安や心配を解消することができます。また、最近は医療の進歩によって治療ができる病気も増えつつあります。例えば、脊髄性筋萎縮症という病気では遺伝子に作用して元々作られないタンパク質を増やす薬ができています。最近ではデュシェンヌ型筋ジストロフィーの一部の患者さんへ遺伝子に作用し効果を発現する薬が出てきました。

気になる運動症状がある場合には、一度、かかりつけの小児科の先生にまずは相談されてみてはいかがでしょうか?

 

こども医療ネットワーク会員

丸山 慎介(鹿児島大学病院小児科)