こども救急箱

vol.280 コロナ禍の「不要不急」

―予防接種控えないで―

南日本新聞掲載日付 2020/08/04

4月から5月にかけての緊急事態宣言で下火になったかと思われた新型コロナウイルスによる感染症が、全国的に再度勢いを増して広がっています。感染症予防と経済活動のバランスで、世界各国のリーダーが創意工夫にしているようですが、明確な正解がない課題に直面して難渋している様相です。

 わが国は諸外国に比して感染者数も死亡者数も少ないと思われましたが、想定よりも早く大きな勢いで第2波が襲来し、日常生活においても季節の恒例行事がことごとく中止になっています。

日常生活がコロナ禍で破壊されているように見えますが、考え方によっては新しい気づきをもたらしているかもしれません。例えば、私のような大学教員の立場では、各種学会をはじめ会議や授業のあり方など、従来やってきたことの中に、実は無駄な移動や必要のない行事が含まれていたことに気づき始めています。

 医療現場を見ると、手洗いやマスク、あるいは慎重な行動によって感染症の拡大は防げることを再認識しましたし、多くの方が病院受診の中には「不要不急」なものがあったと感じたかもしれません。

一方で、絶対に必要なことなのにコロナ騒ぎで後回しにされたのではないかと危惧することもあります。子どもの予防接種や健診です。予防接種は「ワクチンデビューは2か月から」という言葉で表現されるように、接種時期が非常に重要です。指定された期間に受けた場合にだけ公費負担になる制度は、接種時期に意味があるという理由です。乳幼児健診も同様で、仮に「もう少し経過をみましょう」ということがあっても、いつ指摘されたのかが重要な情報になります。

不要不急という言葉の意味は、それぞれの生活によって異なりますので、何もかも控えることがないように注意したいものです。

 

こども医療ネットワーク理事長

河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.279 こどもの靴の選び方

―前足部の幅に余裕を―

南日本新聞掲載日付 2020/07/07

 こどもの靴を選ぶときに、どのような靴を買うべきか迷うことはありませんか?今回は「こどもに適した靴」として医学的な観点、選び方について述べさせていただきます。

 まず、靴を選ぶ際に、こどもの足の発達、成長の特徴を知ることは大切です。歩き始めたばかりの子は骨の連結は緩く、立位で足底のアーチはほとんど認めず(いわゆる扁平足)、幅広い足です。4歳くらいまでにアーチが認められるようになりますが、形成が不十分なこともあります。また、足長は身長に比例して長くなりますが、足幅は個人差が大きいと報告されています。足幅は足長に比べて成長が遅れるため、成長とともにアーチがだんだん高くなり、幅広の足から細長い足へと成長していきます。こどもの足の筋力は十分ではなく内外反の動きの不安定性(正面から見て内返し・外返しの不安定性)も注意する点です。

 以上を踏まえ、こどもにとってどんな靴が良いか以下に簡単にまとめました。①前足部の横幅の広い靴(幅狭の靴は外反母趾や内反小趾などの変形の原因になる)。②サイズの目安は踵を靴の後方に軽く押しつけ、つま先までの余裕は5mmくらい。③未熟で不安定な足であるためにアーチを保持し、踵(かかと)を包み込む部分(カウンター)の構造がしっかりしている靴。④つま先立ちしたときに足の指の付け根の部分がしっかりと曲がり(踏み返しが十分できる)、踵が靴から浮き上がらないように、靴底が程よい屈曲性と弾性を持つこと。

 靴の買い替えは、足の成長のスピードを考えると1年に2回ほどが目安になります。こどもの足は未熟であり、大人の足に近づくための骨組みをしっかりとさせていく重要な時期でもあります。こどもの靴を選ぶ際に参考になれば幸いです。

 

279こどもの靴の選び方

中村俊介(鹿児島大学病院整形外科)

vol.278 新型コロナ「裏の顔」

―DVや虐待の発生報告―

南日本新聞掲載日付 2020/06/02

 今年は『ニイゼロニイゼロ』と心地よい響きの新年の始まりでしたが、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、感染に対する恐怖、流行阻止のための行動規制、およそグローバル化と逆行する鎖国状態、先進各国でみられた医療崩壊など、誰も予想できませんでした。

 コロナウイルスは一般的な風邪ウイルスの一つですが、今回はヒトが経験したことがない型に変化(変異)し、新型が誕生しました。当初は肺炎が騒がれましたが、味や臭いを感じないことや、小児では川崎病に似た症状も出ることが報告されています。

 一方で、この新型ウイルスに感染しても、症状が出ない人やごく軽症の人が8割もいること、特に若者にその傾向が強く、しかも症状がない状態でも他の人にウイルスを感染させてしまうことも判明しました。そのため、国から緊急事態宣言が発出され、居住地を離れない移動自粛が叫ばれています。主な死亡原因は肺炎ですが、成人、特に高齢者や肺疾患や糖尿病など基礎疾患を持つ人では急激に悪化することもあり注意が必要です。幸い、小児の重症例はほとんど報告されていないものの、注意を怠ってはいけません。

 以上が表の顔とすると、裏の顔も考えなければなりません。感染拡大を防ぐため緊急事態宣言が出ている時、学校は休校し、保護者も自宅での勤務を余儀なくされます。長時間、自宅のみで過ごしていると、閉塞感でストレスが蓄積し、ストレスを怒りによって発散する傾向になります。新型コロナはそんな人間の心の弱みにつけこみやすく、家庭内暴力(DV)や虐待の発生が各地で報告されています。

 新型コロナウイルス感染症の表の顔にも、裏の顔にも負けたくないですね。困った時には配偶者暴力相談支援センターや虐待対応ダイヤル「189」の利用もお勧めします。

こども医療ネットワーク会員
嶽崎智子(鹿児島生協病院小児科)

vol.277 続・低ホスファターゼ症

―歯科受診で早期発見を―

南日本新聞掲載日付 2020/05/05

 4月のあんしん救急箱に低ホスファターゼ症 (以下HPP) を疑うきっかけとなる乳歯の早期脱落(根元から抜ける)に関して歯科の先生に書いていただきました。今回はHPPです。

 HPPはアルカリホスファターゼ(ALP)という骨を強くする働きのある酵素が不足するため起こる病気です。症状の程度や出現する時期で6つのタイプ(周産期型(軽症型/重症型)・乳児型・小児型・成人型・歯限局型)に分けられています。

 お母さんのおなかにいる胎児期から肋骨の育ちが悪く、出生後呼吸困難となる重症なお子さん(周産期重症型)から幼児期、乳歯早期脱落以外の症状を認めない患者さん(歯限局型)など、症状は幅広いです。重症な患者さんは早期に診断することが可能ですが、歯限局型や小児型の患者さんは乳歯の早期脱落が診断のきっかけとなる場合があります。

 乳歯早期脱落を認めた際、多くの患者さんは歯科を受診します。歯科の先生がHPPを疑った場合に小児科受診を勧め、小児科で血液検査でALPの値を確認します。ALPの値が年齢に比べて低い時、HPPの可能性を考え骨のレントゲン写真など更なる詳しい検査を行います。

 HPPの治療は、不足しているALPを補充する注射のお薬と症状に合わせた対症療法がありますが、注射の治療はHPPと診断された全てのお子さんに必要というわけではありません。HPPと診断された方の中には乳歯早期脱落以外で他に症状のない場合もあります。本人の症状や検査結果によって治療の必要性を検討します。

 注射の治療は開始しなかったけれど、成長の段階で低身長や運動発達の遅れ、骨折しやすいなどの症状を新たに認める場合もあるため、定期的な経過観察は必要です。

 子供の成長にかかわるHPPという疾患に早い段階で気づき、治療に結びつけるきかっけになるのが乳歯の早期脱落です。これはご両親をはじめ多くの方に知っておいてもらいたいと思います。

こども医療ネットワーク会員
柿本令奈(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.276 低ホスファターゼ症

―早期に抜ける乳歯注意―

南日本新聞掲載日付 2020/04/07

 乳歯は一般的には5歳頃から生え替わりが開始します。普通は乳歯の下にある永久歯があごの骨の中で成長しながら上がってきて、乳歯が抜けるとすぐに永久歯が見えてきます。

 その際は乳歯の根がとけていることがほとんどです。しかし、成長による歯の生え替わりではなく、永久歯が生えずに乳歯が早く抜けてしまうことがあります。その原因として一つは歯のけがです。遊んでいる最中の転倒や強打によって乳歯が抜けてしまうことがあります。でも、思い当たるけがはないのに、5歳以下で早く乳歯が抜けてしまう場合は低ホスファターゼ症(HPP)という病気の可能性があります。これは、体の中のアルカリホスファターゼという骨を強くする酵素が不足することで起こります。この病気の特徴は乳歯の根がとけずに抜けてしまうことです。それは歯を支えている骨と歯の根をつなげる部分が何らかの原因で弱くなるからと考えられています。小さいお子様の保護者は、乳歯が抜けた原因を歯のけがや、硬いものを噛んだことによって抜けたと考えることが多いですが、低ホスファターゼ症のように病気によって乳歯が抜ける場合があることも知っていただきたいです。歯の様子から低ホスファターゼ症が疑われた場合には小児科へ紹介し詳しい検査を行うことになります。(小児科での検査や治療に関しては次号で予定しています)

 乳歯は顎を作る上で重要な役割を果たします。また、食べる、話すといったお口の機能を育てる上でも大事な要素です。また、抜けた後はしばらく永久歯が生えてこない場合が多いので、子ども用の入れ歯(小児義歯)を入れて、永久歯が生えてくるスペースを保つ必要があります。もし、乳歯が早く抜けた場合は、新たな病気をみつけるきっかけになる場合もあるので、抜けたまま放置せずに近くの小児歯科専門医を受診し、乳歯が抜けた原因を調べてもらいましょう。

276低ホスタファーゼ症

こども医療ネットワーク会員
佐藤秀夫(鹿児島大学病院小児歯科)