こども救急箱

vol.260 溶連菌感染症と合併症

―腎機能低下にも注意―

南日本新聞掲載日付 2018/10/02

 のど(咽頭、扁桃)に感染する病原体にはいろいろなウイルスや細菌があります。咽頭炎、扁桃炎の原因の多くはウイルスですが、注意すべき細菌として溶連菌(溶血性連鎖球菌)があります。溶連菌感染症の代表的な症状は、喉の痛み、発熱、鮮紅色の発疹です。舌が赤く腫れたり(苺舌)、発疹が治まった後に指の皮がむけることもあります。他にも伝染性膿痂疹(とびひ)のような皮膚感染症や中耳炎、肺炎などの様々な症状を呈することがあります。

 溶連菌による上気道炎患者の5~10%に、皮膚感染症患者の約25%に、それぞれ平均10日後および平均20日後に発症する急性糸球体腎炎です。それは、血尿、蛋白尿などの尿所見が突然に出現して発症する腎炎で、溶連菌感染後急性糸球体腎炎と呼ばれます。2~12歳に多く、小児にとって注意すべき疾患です。

 溶連菌感染後急性糸球体腎炎は、自然治癒率が高く、一般的には予後良好な疾患とされています。しかし、浮腫、高血圧、高度の蛋白尿、肉眼的血尿などがあるときは入院が原則です。腎機能が低下し、浮腫がある時期には塩分や水分の摂取制限を行う必要があります。まれではありますが急激な血圧の上昇によりけいれんや嘔吐などを伴う高血圧性脳症を発症することもあります。

 溶連菌感染症に罹患していたことに気づかずにいて、肉眼的血尿や浮腫、高血圧があり、血液検査(ASO高値や低補体血症など)、尿検査などで溶連菌感染後急性糸球体腎炎と診断されることもあります。

 したがって、溶連菌感染症と診断された時には急性糸球体腎炎を予防することが重要です。その治療には抗菌薬を内服しますが、急性糸球体腎炎の予防には抗菌薬の種類にもよりますが、症状に関わらず7~10日間内服を継続することが勧められます。

 

こども医療ネットワーク会員
永迫博信(帖佐こどもクリニック院長)

vol.259 子育て支援

―多面的な負担軽減を―

南日本新聞掲載日付 2018/09/04

 人生100年時代と言われるようになりましたが、2010年以降に生まれた日本人の半数は107歳まで生きるという推計があります。もちろん、日頃から健康管理に注意し、成人期にはがん検診を受けて、適切に薬も利用するという条件付きだと思います。

 現在の少子化傾向がこのまま続けば、子どもの比率は想像できないほど下がりますから、若者が働いて高齢者を支える従来の社会バランスが崩れることは明白です。それを防ぐために、国策としてさまざまな子育て支援対策が練られています。しかし、刻々と変化する時代のニーズに合った政策立案は難しいと言われます。「最近の若い者は・・」という世代間の考え方の違いのためでしょうか。

 小児科は病気になった子どもの診断と治療をし、予防接種や健診などの保健業務を担当することで子育てを支援しています。最近では、上手に社会生活に馴染めない子どもの割合が増加し、療育の現場で発達障害児の支援に関わることもあります。

 ところで、少子化対策には、子育て中のお母さんがもう一人子どもが欲しいと思える環境作りが重要です。子育ての経済支援だけでなく、保護者の精神的負担にも配慮する必要があると思います。

 共働きやひとり親の家庭に限りませんが、平日に実施される学校行事だけでなく、休日行事やボランティア活動等に参加できないことも多いです。もちろん、できない事情は認められますが、精神的な負担は発生します。日本在住の外国出身の友人によると、幼稚園や小学校等の教育機関から求められる役割負担が大きく、両親が職を持って楽に子育てをする環境にないという感想を持っているそうです。

 保育園の無償化以外に、子育て支援策は種々の角度から考慮されるべきかもしれません。

 

こども医療ネットワーク理事長
河野嘉文(鹿児島大学病院小児診療センター)

 

vol.258 風邪と抗菌薬

―細菌由来の症状に処方―

南日本新聞掲載日付 2018/08/07

 小児科を受診する患者の症状で最も多いのは、発熱、鼻水、せきなどの風邪症状です。子どもが熱を出し、ぐったりしていると、家族はとても心配することと思います。
 家族から「心配なので抗菌薬(抗生物質)をもらえませんか」「気管支炎や肺炎にならないように、予防的に抗菌薬をください」という申し出があります。「風邪で抗菌薬を飲んだが、良くならない」という声をいただくこともあります。
 風邪の病原体は、主にウイルスと細菌に分けられます。鼻、のど、気管など気道の感染症が多いですが、嘔吐(おうと)、下痢などの胃腸炎症状を起こすこともあります。風邪の約90%はウイルスが原因です。抗菌薬は細菌には効果がありますが、ウイルスには効果がありません。抗菌薬は副作用として、下痢や薬疹、肝機能障害が出ることがあります。
 不必要な抗菌薬使用は、抗菌薬に抵抗性を持つ薬剤耐性菌を増やし、それによる感染症の増加が国際的に問題となっています。米国では、処方された抗菌薬の約30%が不必要だったとの報告もあり、日本でも抗菌薬の不必要な使用が一定の割合であると推測されます。
 しかし、新生児期や乳幼児期の感染症(インフルエンザ菌、肺炎球菌、A群溶連菌など)、学童期に多いマイコプラズマ感染症では、抗菌薬が必要になる場合もあります。小児科医は症状と、診察、検査結果から抗菌薬が必要かどうかを判断しています。
 抗菌薬が必要な状況を減らすことも重要です。手洗い(流水と石けんでの手指衛生)、予防接種、せきエチケット(マスクの着用やせき・くしゃみの際に口と鼻を覆い、顔を他の人に向けない)、うがいなど、普段から感染の予防を心がけることが大事です。

 

こども医療ネットワーク会員
上野健太郎(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.257 尿の異常

―色や量から異変察知―

南日本新聞掲載日付 2018/07/03

 尿は腎臓で作られて、体に不要な物質や水分を排泄するとても大切な役割を担っています。今回は小児に見られる尿の異常を紹介します。

 まずは尿量の異常です。尿量が減る代表的な状態は脱水症です。嘔吐下痢症に罹患した時など、何時間も尿が出ないと脱水症が疑われます。逆に尿が必要以上に出る病気として、頻度は多くありませんが、尿崩症や糖尿病といった病気があります。尿量が極端に多く、異常に水分を欲しがる場合は要注意です。尿の回数が増える病気としては膀胱炎や心因性があります。膀胱炎では排尿時に痛がったり、血尿が出たりすることがあります。

 次に尿の色の異常です。一番多いのはやはり血尿です。普通の尿は麦わら色をしていますが、血尿があると赤色に変化します。原因としては膀胱炎・尿路結石・水腎症などがありますが、病気によっては褐色に近い色のこともあります。病気でなくても、水分摂取が不足して血尿にみえるような濃い尿が出ることがあるし、時には風邪薬に含まれる成分のせいで血尿に見える場合もあります。

 最後に尿路感染症について紹介します。尿の通り道で病原体によって炎症が起きる病気です。細菌による尿路感染症では尿が混濁してみえることがありますが、尿が混濁しているからといって尿路感染症というわけではありません。尿路感染症を起こす背景に何か腎臓の病気が隠れている場合がありますので、尿路感染症に気づく事はとても大切です。

 子どもの尿の異常から病気を見つけることが可能ですので、おかしいと感じたら近くの小児科医に相談しましょう。自律排尿が確立していない乳幼児でも、尿を採取するための特殊なバッグがありますので尿検査は可能です。

 

こども医療ネットワーク会員
稲葉泰洋(鹿児島大学病院小児診療センター)

vol.256 学校心臓検診

―異常見つけ適切に対処―

南日本新聞掲載日付 2018/06/05

 学校心臓検診は、学校保健法に基づき小中高校の1年時に実施しています。進学で環境が変わる節目に、隠れた心臓病を発見し、運動や部活動を安全に行うこと、学校での突然死を防ぐことなどが目的です。

一次検診は、学校で対象学年の全員が受けるもので、昨年の鹿児島県内受診者は1万5847人でした。

二次検診は、一次検診で異常の疑いがあると判断された子どもに、医療機関でエックス線写真や超音波検査などで精密検査をするものです。昨年の精密検査受診者は281人で、そのうち44人が継続して通院を必要と診断されました。

一次検診は問診票の記載と心電図で行います。私たち小児循環器医が小中学生を、循環器内科医が高校生をそれぞれ担当します。

対象者の波形は全て、2名以上の検診担当医師で確認します。問診票には、これまでに心臓の病気にかかったことがあるか、息切れ、動悸、胸痛などの症状があるか、家族に突然死した人や心臓病がある人がいるかなどを書くようになっています。

心電図波形が異常とされない場合でも、問診票の記載で病気が疑われる時は二次検診で異常が見つかる場合がありますので、問診票を正しく記載をすることが大切です。

このように少数ではありますが病気の可能性を指摘され、一部に運動で突然死の危険があると診断される子どももいます。診断されても、運動管理や治療を受けることで、安全に生活できますので、学校心臓検診の役割は大きいのです。

学校心臓検診で病気と診断されると、戸惑い、混乱すると思いますが、不安なことがあったら小児循環器医に相談してください。子どもが安全で快適な学校生活を送れるよう、一緒に考えましょう。

 

こども医療ネットワーク会員
川村順平(鹿児島大学病院小児診療センター)