がんゲノム医療という言葉をご存知でしょうか。ゲノムとは,体の設計図である遺伝子などのヒトの体の成り立ちに関わる全ての情報のことで,それが一冊の本のようにまとめられて細胞の中に収められています。細胞が増える時にその本(ゲノム)は書き写されますが,この時に運悪く,がんに関係する遺伝子に書き間違いが起こると,がんが発生すると言われています。この書き間違いを変異と呼ぶので、遺伝子変異と表現します。
がんの原因となる遺伝子を調べ,診断や治療に役立てることが「がんゲノム医療」です。2019年6月からがん遺伝子パネル検査という,一度に100個以上のがん遺伝子を調べる検査が保険適応となりました。年齢を問わず,標準的な治療法では治療が難しい固形がんの患者さんが検査対象です。
この検査では約八割の患者さんにがんの原因となる遺伝子変異が見つかります。しかし,実際に保険適応のある治療薬があるか,進行中の治験などに参加するなど,検査結果に基づき治療できる患者さんは約一割です。治療につながる可能性はまだ高くはありませんが,治療法のない患者さんにとっては貴重な情報を得ることができる検査です。
がん遺伝子パネル検査は,難しい小児がん患者さんにとっても希望の光となり得ます。しかし,現在のがん遺伝子パネル検査は成人を対象に作られているため,治療できる小児患者さんは成人よりも少ないと考えられます。ゲノム医療を小児がんで有効活用するために,小児がんに特化したがん遺伝子パネル検査の開発が必要です。
小児がんは成人がんと比べると患者数が少ない割に種類が多く,診断や悪性度の評価が難しいことが特徴の一つです。治療だけでなく、診断や治療結果の評価にもこの検査を利用することができるようになれば,さらに効果的で副作用の少ない治療法の開発につながると期待されます。
こども医療ネットワーク会員
中川俊輔(鹿児島大学病院小児診療センター)