こども救急箱

vol.300 言葉の発達とスマホ

―2歳までは使用控えて―

南日本新聞掲載日付 2022/04/01

産まれたばかりの赤ちゃんは、声を上げて泣いたり表情を微妙に変えたりして、自分の思いを表現します。このことに周りの人々が気付き、赤ちゃんの世話をしたりあやしたりすることで、赤ちゃんは「愛情」を実感し、社会との関わりが始まります。

体の成長に伴い子どもたちの世界はさらに広がり、次第に興味ある物を「指さし」で周囲の注意を引くことを覚え、自らの欲求を満たすことができるようになります。

周りの人々が見る物にも一緒に興味を向けられるようになり、そこに「名前」がついているらしいことを学んでいきます。こうした「生きた体験」をたくさん積み重ねて、「言葉の獲得」にたどり着くのです。

このように、子どもたちの発達には五感を通じた体験と、人との関わりが重要です。当たり前のように見える日々の体験が、一人一人の感性が磨き、想像力や感情を育てていきます。

多忙な現代社会にあって、つい子どもの欲求をスマホやタブレットで満たしていないでしょうか。漠然と見るだけになってしまいがちなこのようなデバイスの長時間使用は、子どもたちの発達に悪影響を及ぼす可能性があり、2歳までは使用を控えることが勧められています。

物を見たり、動かしたり、触ったり、匂いを嗅いだり、本を読んでもらったり…。大人にとっては何気ない日々の小さな時間が、子どもたちにはかけがえのない体験になるのです。

物事への興味の持ち方や、子どもたちの性格は個人差があり、それによって言葉の獲得への道のりもさまざまです。

一人一人の個性を尊重しながら、長い目で見守っていくことも大切でしょう。言葉の発達で不安なことがあれば、療育機関や保健師、小児科医といった専門家と一緒に考えを深めてみるのはいかがでしょうか。

 

こども医療ネットワーク会員

下村育史(鹿児島大学病院小児科)

vol.299 長引くせき

―乳児の授乳量低下に注意―

南日本新聞掲載日付 2022/03/04

「この子、せきが長引くんです」と訴えて小児科を受診される方がいらっしゃいます。仮に本人が元気であっても、何か悪い病気が隠れているのではないかと不安を抱えて受診されるのだと思います。今回はこの「長引くせき」についてです。

最も多いのはいわゆる「風邪」です。特に保育園に行っている3歳未満児は風邪が治ってはまたかかりを操り返し、年中なんらかの風邪をもらっている子も珍しくありません。集団生活に入ったばかりの数か月に特に多くみられます。熱もなく元気であれば、せきが目立つ風邪が長引いている可能性が高く、特に心配しなくてよさそうです。

次に多いのは蓄膿といわれる「副鼻腔炎」によるせきです。頬の奥にある副鼻腔といわれる空間に炎症が起こり、うみがたまる病気です。せきと一緒に頭痛がある場合や、元々鼻炎があるときにはこれを疑います。

また、典型的ではありませんが「喘息」によるせきもあります。喘息はゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音が典型的ですが、まれにせきが目立つタイプもあります。小さい頃に気管支喘息の診断を受けたことがある、もしくは風邪をひくとぜいぜいしやすい場合には喘息によるせきの可能性があります。

他には「マイコプラズマ」や「百日ぜき」といったせきが目立つ感染症もあります。周りでこれらの診断を受けた方がいたり、診断はなくてもひどいせきがはやっていたりする場合、これらを疑うことがあります。せきで何日も眠れない、口から水分などをとる量が減ってきた、など心配なことがあれば受診してください。

せき自体はたんや異物を外に出す自然な反応であり、無理に抑える必要はありません。しかし、乳児でせきがひどくて眠れなかったり、授乳量が低下してしまう場合には注意が必要ですので、かかりつけの小児科医へご相談ください。

 

こども医療ネットワーク会員

関 俊二(国立病院機構指宿医療センター)

vol.298 爪かみや枝毛

―よく観察し話を聞く―

南日本新聞掲載日付 2022/02/04

こどもが「爪をかむ」、「皮膚をむしる」、「唇をかむ」などの行動を繰り返すことがあります。「様子をみていたがおさまる気配なく、傷もひどくなった」と相談を受けることもありました。

本人がやめようとしてもなかなかやめられないので、周囲の目につかないように隠れて行うこともあります。このような行動は、直前に緊張や不安があり、その行動を行うことで気持ちが和らぎ、解放感を得られるためにすることが多いようです。

自分を傷つける行動の中には、「毛を抜く」というのもあります。髪の毛のこともあれば、まつげやそれ以外の体毛のこともあります。爪をかむ行為に比べると目立ちにくいのですが、よく観察すると抜く動作に気づくことができます。

利き手ですることが多いので、利き手側に抜けた部分が多いです。行動自体をしかられてしまうと隠れてするようになったり、かえって行動が強くなったりすることもあります。

このような異常行動に気づいた時には「またしている!」と怒ったりせず、まずどんな時にしているのかをよく観察することが大切です。

本人は無意識にしていることもあるので、どんな時にその行動をしているかということを、自分でも気づかせるのも大事です。

こどもの感じていることや今日の出来事など話を聞いてあげて、きっかけになる場面を少なくするよう一緒に考えてあげましょう。

考えられる対応策として、抜毛する自分に気づいたら消しゴムを握るなど他の行動に置き換える行動療法や、専門家によるカウンセリングなどがあります。

有効性はさまざまですが、周囲の大人が「苦しんでいるんだね」と寄り添ってあげて、過ごしやすい環境を作ってあげることが基本になると思います。

 

こども医療ネットワーク会員

米衛ちひろ(鹿児島大学病院小児科)

vol.297 蕁麻疹

―少ないアレルギー関与―

南日本新聞掲載日付 2022/01/07

お子さんの身体に蕁麻疹が出て、「食物アレルギーではないか」と心配して病院に駆け込む親御さんは少なくありません。

蕁麻疹とは、皮膚の一部がくっきりと赤く盛り上がった膨らみが身体のあちらこちらにでき、かゆみを伴う病気です。しばらくすると跡形もなく皮疹とかゆみが消えるという特徴があります。

6週間以内を「急性蕁麻疹」、それ以上経過した場合を「慢性蕁麻疹」と呼びます。

蕁麻疹はどうやって起こるのでしょうか。皮膚の血管の周りには「マスト細胞」という細胞があります。何らかの仕組みでマスト細胞の中に含まれている「ヒスタミン」という物質が放出されると、皮膚の血管が膨らんで皮膚の表面が赤く見えるようになります。

血液の中の血漿と呼ばれる成分が周囲ににじみ出ることで皮膚の一部が盛り上がります。ヒスタミンは神経を刺激するのでかゆみを伴います。

原因としては、アレルギーが関係している場合と、関係していない場合(物質的刺激や運動、疲労・ストレス、原因不明など)があります。一般的にはアレルギーの関与は少ないと考えられていますので、蕁麻疹を見たらすぐにアレルギー体質と断定する必要はありません。

治療は、原因が明らかな場合はそれらを回避することですが、ほとんどの場合は原因がわからないので、ヒスタミンの作用を抑える内服薬での治療が中心になります。

慢性蕁麻疹の場合、長期に内服が必要になることがありますが、ほとんどの場合は少しずつ薬の量を減らし、やがては中止できるようになります。

最近では新しい薬(生物学的製剤)も登場しています。難治で適切な治療を行ってもコントロールできず、日常生活に支障が出るような場合は専門医にご相談ください。

 

こども医療ネットワーク会員

古城圭馴美(鹿児島こども病院)

 

vol.296 子どもが頭を打ったら

―活気や機嫌の確認を―

南日本新聞掲載日付 2021/12/03

子どもが頭を打って心配された経験は、どなたにでもあるのではないでしょうか。日常的に発生しやすいとはいえ、いざその場面になると慌ててしまいますよね。

まずは意識状態、活気や機嫌、打撲した場所、強さの程度の確認が必要です。よびかけても反応がなく目をつむっていたり、反応して目を開けてもすぐに寝る、言葉を発しない、手足を動かさない場合は意識状態が悪いため、直ちに病院を受診しましょう。

頭を打った1~2時間後でも元気がない状態が続く場合や、複数回もどす状況が続く場合は受診が必要です。打撲部位に変形や腫れ、へこみがある場合は頭蓋骨骨折の可能性もあります。受傷時に強い力が働く「高エネルギー外傷」の場合は、頭蓋内出血、脳損傷をきたす場合がありますので、注意が必要です。2歳未満では約90cm以上、2歳以上では約150cm以上からの高所からの落下、高速物体との衝突、交通事故などがこれにあたります。

軽症例では頭部コンピューター断層撮影(CT)の必要はありませんが、重症例を見逃さないため、被ばくのリスクと検査のメリットなどを加味し、医師の判断でCT撮影を決定します。1回目は明らかでなくても、2回目以後のCTで頭蓋内出血や脳損傷が明らかになることがあります。けがをしてから24~48時間程度は症状の変化がないかに注意が必要です。

子どもはちょっとした隙に予期しない行動をします。目を離さないとともに、事故につながらない環境を整えることが重要です。柵の設置、ベビーベッドの柵を上げる、運転中はシートベルトを装着する、抱っこひもやスリングの使用時はかがむ、などの対策がそうです。

事故の予防、そして万が一起きてもその程度を少しでも軽くするために、日常にひそむリスクを見直してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

加藤嘉一(鹿児島県立大島病院)