こども救急箱

vol.305 起立性調節障害

―家族や周囲の理解大切―

南日本新聞掲載日付 2022/09/30

子どもの生活習慣として「早寝、早起き、朝ごはん」が推奨されていますが、早起きが苦手な子どももいます。早起きしようと思っても起きられない原因はいろいろあり、起立性調節障害という疾患の場合があります。

朝なかなか起きられず午前中は調子が悪い、立ちくらみやめまいを起こしやすい、顔色が悪い、疲れやすい、入浴すると気持ち悪くなる、乗り物酔いしやすい、頭痛や腹痛がある、といった症状があれば可能性があります。起立性調節障害は自律神経系の不調で、起立時に血圧の調整ができず脳血流が低下する疾患です。10歳から16歳くらいで発症しやすく、小学生の約5%、中高校生の約10%に見られます。

登校できないなど日常生活に支障がある場合、1年後の回復率は50%程度、2~3年後で70~80%程度と、長い時間をかけて回復していきます。本人は頑張りたくても体がうまく動いてくれません。周囲の理解がないと、抑うつ傾向になることもあります。長い時間をかけて体調を良くしていく上で、家族や周囲の理解が最も大切です。

病院では、診察や血液検査、心電図検査などで他の病気がないかを調べ、血圧の詳しい検査で起立性調節障害かどうかを診断します。生活習慣を整え、水分・塩分を多めに摂取することが勧められています。弾性ストッキングを着用したり、内服薬を使用したりすることもあります。午後の調子が良い時間に運動することも重要です。サプリメントや整体などによる改善は現時点で明確な科学的根拠はありません。

新型コロナウイルス禍で生活が大きく変化し、運動量も減ったことで、起立性調節障害を発症する子どもが増えています。気になる症状がある場合は、かかりつけ医に相談してみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

四元景子(今村総合病院小児科)

vol.304 動悸

―子どもの脈測る習慣を―

南日本新聞掲載日付 2022/08/26

「胸がドキドキする」と動悸を訴える子どもがいます。動悸といっても内容はさまざまで、すべてが心臓の病気とは限りません。例えば、大勢の人前で話す時ドキドキするでしょうし、緊張やストレスで交感神経が活発になると心拍数が上がります。これは正常な反応で病気ではありません。

緊張するような場面でないのに、頻繁にドキドキするのは病気のサインかもしれません。発熱や脱水、貧血、甲状腺の異常など心臓以外の問題がある可能性があります。思春期であれば、起立性調節障害という自律神経機能不全による一症状のこともあります。

ドキドキする時に病院を受診できれば原因が分かるかもしれません。受診時にドキドキしていない場合は、動悸の説明が大切です。①きっかけがあるか② 時間帯③自覚症状と持続時間④突然始まり突然止まるか、または徐々に始まり徐々に止まるか⑤脈拍数はいくらか、規則正しいか不規則かーなどです。

毎日のように症状が出るのなら、24時間記録できる心電図検査を行います。頻度が少ないようなら、病院から携帯型心電計を貸し出し、ドキドキする時に測定します。簡易的には、スマートウォッチ(腕時計型端末)も役立ちます。原因が不整脈と判明すれば、対応の仕方も分かります。不整脈には、心配する必要のない不整脈や、内服やカテーテル治療が必要なものあります。

子どもが胸のドキドキを訴えた時、まずは脈を測ってみましょう。大人と同じように手首の親指側に指を当てて測ります。分かりづらい時は、子どもの胸に直接耳を当てて胸の鼓動を数えます。普段との比較になるため、気になる場合は、子どもの脈を確認する習慣を身に付けておくといいでしょう。

 

こども医療ネットワーク会員

二宮由美子(国立病院機構鹿児島医療センター)

vol.303 鼻血

―頻繁な場合は医療機関へ―

南日本新聞掲載日付 2022/07/29

子どもが頻繁に鼻血を出すことを経験された保護者は多いのではないでしょうか。保護者自身にも、そのような経験があるかもしれません。「よく鼻血が出るが、大丈夫だろうか」と心配になることがあると思います。ほとんどの場合は大事に至りませんが、厄介な病気が隠れていたり、なかなか止まらなくて苦労したりすることがあります。乾燥や外傷が原因の場合や、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、時には血液の病気が見つかることもあります。

鼻の入り口から1-2㎝の付近に『キーゼルバッハ部位』と呼ばれる場所があります。毛細血管が集まり、粘膜が薄くなっているため、非常に傷つきやすく、少しの刺激で出血してしまいます。大部分の鼻血はここからの出血です。

止血のポイントは鼻翼(小鼻)を両方から挟むようにして指で押さえることです。ティッシュペーパーなどを鼻に詰めることはあまり推奨されません。詰めた際に鼻の粘膜を傷つけて傷口を広げたり、取り出すときに「かさぶた」がはがれて再び出血したりするからです。また、「首の後ろをトントンたたく」、「鼻の付け根の固い部分をつまむ」というのもよく聞きますが、これらは迷信であり止血効果はありません。

止血時に上を向いて寝ると、血液が喉に流れ込み、飲み込んだ血液が胃にたまると吐き気が生じ、嘔吐の原因になります。腰掛けて少し前かがみの姿勢で止血してください。10分も押さえていれば止血するでしょうが、それでも止まらない場合や、鼻出血が頻繁にある場合は医療機関の受診をおすすめします。受診される際は出血の持続時間のほか、左右のどちらから出血しやすいか、歯茎からの出血や腕や足に紫斑などの出血症状があるかどうか、内服中のお薬の情報があれば教えてください。診断の助けになります。

 

こども医療ネットワーク会員

棈松 貴成(国立病院機構鹿児島医療センター小児科)

 

vol.302 尿の色

―疾患のサインの可能性―

南日本新聞掲載日付 2022/06/03

お子さんの尿の色を確認することはありますか。尿の色は、お子さんの健康状態を示している可能性があります。尿は腎臓の中で血液をもとにつくられます。不要な老廃物や水分などをろ過して尿がつくられ、尿管・ぼうこう・尿道を通り体外に排出されます。

健康な人の尿の色は、淡い黄色から黃褐色です。これは血液を分解した際に出る代謝物のウロビリンの色です。水分摂取量が多いと、尿量が増えてウロビリンが薄まり、透明に近くなります。逆に水分摂取量が少ないと、尿量が減ってウロビリンが濃くなり、褐色になります。

尿が赤く見える場合には、尿に血液が出ているか、激しい運動後に壊れた筋肉から出たミオグロビンが混じっている可能性があります。尿検査をすることで区別は簡単にできます。尿に血液が出ている場合は、腎臓・尿管・ぼうこう・尿道の問題を考えます。

肉眼では赤みが目立たず、簡単な検査で血液が混じっていることが分かる場合があります。乳幼児健診や学校検診で指摘されるようなときです。症状がなくて見つかった場合でも、病気の発見につながる可能性があるため、早めに病院を受診するようにしましょう。

尿が白く濁っている場合は尿路感染症の可能性があります。排尿時の痛みや熱などの症状を伴うことが多いですが、小児では痛みがあることを「排尿を極端に嫌がる」ということで表現することもあります。

また、風邪などで薬を内服している際には、薬が反応して茶色、黒色、緑色、オレンジ色などに変色することがありますが、薬を飲み終わると通常の色に戻ります。飲み終わっても変色が続く場合には病院を受診しましょう。

このように、尿の色だけでもさまざまな疾患のサインの可能性があります。お子さんの体調チェックに尿の色も参考にしてみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

岡田聡司(県民健康プラザ鹿屋医療センター)

 

vol.301 にきび

―ますは規則正しい生活を―

南日本新聞掲載日付 2022/05/06

にきびを経験したことがない大人はいないのではないでしょうか。にきびは思春期から青年期にかけてなりやすく、青春のシンボルともいわれます。大人になってできたものは吹き出物と呼ばれたりしますが、医学的には尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)という病名で、全く同じものです。

にきびの大きな原因は以下の三つがあります。①毛穴の詰まり②皮脂の過剰な分泌③アクネ菌の増殖です。にきびは毛穴の角質が厚くなったり、皮脂が過剰分泌されたりすることにより、毛穴の出口が詰まり皮脂がたまってしまい、アクネ菌が毛穴の中で増殖することによって引き起こされます。

また、思春期には男性ホルモンが増加することで皮脂が過剰に分泌され、にきびができやすいといわれています。他にもステロイドというホルモンの薬の全身投与を長期に行っている人では、にきびができやすいといわれています。

治療は従来からいわれているように、まずは規則正しい生活を送り、ホルモンバランスを整えることが大事です。また、顔をきれいに洗浄し、きれいなタオルで優しく拭き、汚れた手で触らない(いじらない)ようにしましょう。

にきび痕は残ったらなかなか消えず、鏡を見るのが嫌になったり、学校に行くことが嫌になったりと、日常生活に支障が出ることもあるかもしれません。

病院でもにきびの薬は処方できます。日本皮膚科学会が策定したにきび治療のガイドラインでは、アダパレンという毛穴の詰まりに効果があり、にきびをできにくくする塗り薬と、アクネ菌や炎症に有効な抗生物質の飲み薬や塗り薬を強く推奨しています。この薬が使われるようになってからは、元気な中高生の「ニキビづら」をほとんど見かけなくなったように感じます。近くの皮膚科や小児科をぜひ受診してみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

中村 陽(鹿児島大学病院小児科)