「おたふくかぜ」「流行性耳下腺炎」「ムンプス」はどれも同じ病気です。耳下腺が腫れる特徴的な症状から、聞いたことがある人は多いでしょう。一方で、感染しても症状が出ない場合があり予防接種が任意であることから、注目度は高くないかもしれません。
おたふくかぜはムンプスウイルスによる感染症です。主な感染経路は唾液を介した飛沫や人と人の接触で、感染力は比較的強いです。
症状のない「不顕性感染」でも唾液中にウイルスを排出しており、感染源になります。おたふくかぜを根治する治療法はありません。解熱鎮痛剤や患部の冷却などの対症療法を行うことが多く、通常は1~2週間でよくなります。
おたふくかぜで、急に片方の耳の聴力が損なわれることがあります。この「ムンプス難聴」は重症が多く、 改善しにくいなどの特徴があり、発症年齢は15歳以下で、 中でも5~9歳で多いと報告されています。ただ大半が片側だけ発症するため、難聴が見落とされている可能性があります。
発生頻度は、1万5千人に1人といわれています。日本では1年間に百万~二百万人がおたふくかぜにかかるとされているので、 計算上は年間70~140人が発生していることになります。
治療法がない以上、予防が大切になります。流行阻止にはワクチン接種が欠かせません。おたふくかぜは難聴をはじめ脳炎、精巣炎など重篤な合併症を起こす可能性があります。ワクチンは、それらの予防につながります。世界保健機関(WHO)は、はしかや先天性風疹症候群の発症をワクチンでコントロールができた国に対し、おたふくかぜワクチンの普及も勧めています。
日本小児科学会は1歳で1回目、小学校入学前の5~6歳で2回目を打つよう推奨しています。ぜひ接種を考えてみてください。
こども医療ネットワーク理事長
岡本康裕(鹿児島大学病院小児科)