こども救急箱

vol.323 AED

―子どもの不整脈に有効―

南日本新聞掲載日付 2024/03/29

AEDは現在、全国に約67万台が設置され、目にする機会が増えています。そもそもAEDとは何なのか、どういう時に使うのか、どうやって使うのか、よく分からないという方も多いと思います。AEDは日本語で「自動体外式除細動器」と呼ばれます。胸に貼られたパッドを通じて、機械が自動的に心電図を解析し、必要時には除細動(電気ショック)を与えてくれます。AEDにより命を救われた人が数多く報告されています。

AEDは、目の前で倒れている人の「意識がなく」「普段通りの呼吸がない」時に必要となります。このような人を見かけたら、119番通報をして、近くの人にAEDを要請し、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めてください。

AEDが到着したらまずは電源を入れましょう。自動的にAEDのアナウンスが開始され、操作方法を教えてくれます。電気ショックが必要とアナウンスされた場合は、周囲の安全を確認して点滅するボタンを押して下さい。 

子どもの突然死の約半数は心臓が原因と報告されており、さらにその半分はAEDが有効とされるような不整脈が原因と言われています。119番通報から救急車到着まで平均で約9分かかりますが、不整脈が原因の場合、除細動が1分遅れる毎に救命率が7-10%減少するとされています。

AEDを使えれば、この間に一般の方でも救命活動を行うことが可能です。あなたの勇気ある行動が、目の前の急病者の未来を変える時が来るかもしれません。各自治体や消防局による無料の応急手当講習も大変有効です。未来ある子どもたちのために、心肺蘇生法やAEDの使用法をぜひ今一度確認してください。

 

こども医療ネットワーク会員

山田浩平(鹿児島市立病院小児科)

vol.322 新生児聴覚検査

―聞こえの異変、早期発見―

南日本新聞掲載日付 2024/02/23

先天的に難聴をもつ子どもは、千人に1~2人といわれ、他の先天性の病気に比べると高い頻度となっています。難聴に気づかずに放置してしまうと、言葉の発達や社会とのコミュニケーションに影響を及ぼすため、早期に難聴を発見し療育へとつなぐことがとても大切です。このため、鹿児島県でも2021年に「新生児聴覚検査に係る手引き書」を作成し、医療・療育・行政・教育の連携をとっています。

現在は、「1―3―6ルール」という方法を用いています。まず生後1[岡本 康裕1] か月までに産科などで「新生児聴覚スクリーニング」を行います。自動聴性脳幹反応検査によって新生児の左右の聞こえを評価します。22年度の県内スクリーニング受検率は98.5%でした。

片方でも「再検査が必要である」という結果が2回出ると、精密検査実施医療機関(鹿児島市立病院または鹿児島大学病院の耳鼻咽喉科)に生後3か月までに紹介されます。

精密検査の結果、最終的には約半数の方は「難聴がない」と判断されますが、難聴の存在が確定した際には生後6か月までに補聴器を使用する、というものです。しかし、生後1年以上経過しなければ難聴の有無が判明しないこともあります。

難聴の原因はさまざまで、遺伝子の変異によるものが最も多く、[YM2] 先天性サイトメガロウイルス感染症によるものもあります。後者は[YM3] 早期の抗ウイルス薬投与が有効であるとされ、小児科と連携して治療します。

生まれたときに異常がなくても、徐々に難聴が生じることもあります。お子さんの左右それぞれの耳をふさいでみたときや小さな音への反応がおかしいかな、と感じたら耳鼻咽喉科の受診を考えてみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

山下 勝(鹿児島大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

vol.321 子宮頸がん

―子どものうちに予防を―

南日本新聞掲載日付 2024/01/26

日本人の2人に1人が生涯のうちにがんになりますが、実は子どものうちから予防できるがんがあります。それが子宮頸がんです。

2019年には日本で1万人を超える人が子宮頸がんを発症しました。20年の子宮頸がんによる死亡数は2887人でした。残念なことに00年以降、発症数も死亡数も増加しています。治療によって死を免れても多くの場合、子宮を取る手術が必要であり、妊娠・出産の機会を失ってしまいます。鹿児島県では毎年100人前後が子宮頸がんで亡くなっており、21年のデータによると人口あたりの死亡数は全国ワースト2位です。

子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルスに感染した後、発症します。ヒトパピローマウイルスは、性交渉によって感染するので、性交渉を行う年齢になるまでに、予防接種(HPVワクチン)によって予防することが大切です。

小学校6年から高校1年相当の女子は、予防接種法に基づく定期接種として公費によりHPVワクチンを接種することができます。公費助成の対象時期を逃すと、ワクチンの種類や接種を受ける病院によって幅がありますが、4万~10万円の実費が必要になります。接種勧奨が行われなかった世代(誕生日が1997年4月2日~2007年4月1日)には、キャッチアップの接種が無料で受けられる制度があります。

HPVワクチンによって子宮頸がんの患者および死亡者を40~70%程度減らすことができると考えられます。あなた、あなたの子どもが子宮頸がんを発症してから「子どものうちに予防できるがん」があるとは知らなかったということにならないように願います。かかりつけの小児科、内科、産婦人科などで相談し、ぜひ接種しましょう。

 

こども医療ネットワーク理事長

岡本康裕(鹿児島大学病院小児科)

vol.320 1型糖尿病

―小児期の発症、正しく理解を―

南日本新聞掲載日付 2023/12/22

「糖尿病」という病名を聞いてどんなことを思い浮かべるでしょうか。「食べ過ぎや運動不足の人がなる病気」「生活習慣病」「大人の病気」―。こんなイメージを持つ方が少なからずいらっしゃるのではないかと思います。しかし食べ過ぎや運動不足が原因ではない、生活習慣病でもない糖尿病が存在します。

糖尿病には大まかに1型と2型がありますが、小児期に発症する糖尿病の多くは1型です。1型糖尿病は何らかのきっかけにより、本来起きるはずのない免疫反応が起きてしまい膵臓の細胞が破壊され、血糖を下げるホルモンであるインスリンが急速かつ不可逆的に低下し、慢性的に高血糖となる病気です。

病院を受診するきっかけとなる症状として多いのが、強いのどの渇きがありたくさん水を飲む、尿がたくさん出る、トイレに行く回数が増える、体重が減るなどです。ひどい場合は意識障害から救急搬送され、診断されることがあります。自覚症状がなくても学校や幼稚園、保育所での検尿で尿糖陽性となり発見されることもあります。

治療の基本は不足したインスリンを注射で補うインスリン療法です。運動はインスリンの効きをよくしたり、食後の高血糖を抑制したりできるので積極的に行います。

意外に思われるかもしれませんが、食事を制限することはありません。子どもの糖尿病のコントロール目標の一つに『正常な成長』もあるので、各年齢のエネルギー必要量をバランスよくしっかり摂取します。インスリンを補充すれば食べたいものは何でも食べられます。

1型糖尿病が正しく理解されず、傷ついたことがあるという患者さんの声を耳にすることがあります。少しでも多くの方が知ってくださることを願っています。

 

こども医療ネットワーク会員

関 祐子(鹿児島大学病院小児科)

vol.319 炎症性腸疾患

―長引く胃腸炎に注意―

南日本新聞掲載日付 2023/11/24

炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease)と総称される病気が子どもにもあり、症状は腹痛、下痢、血便、発熱などです。IBDは、腸管に慢性的な炎症を起こす原因不明の病気で、一般に「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2疾患からなります。根治治療はなく、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性疾患です。日本人のIBD患者は成人・小児ともに増加傾向で、現在潰瘍性大腸炎は約22万人、クローン病は約7万人と推定されています。小児は成人と比較し、治療に難渋することが少なくありません。また、6歳未満発症のIBDは「超早期発症型炎症性腸疾患」と言われ、原発性免疫不全症が背景にあることもあります。

潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症が起こる病気です。対してクローン病は、消化管(口~肛門まで)のどこの部位にも炎症が起こり得ます。クローン病では腹部症状のないこともあり、体重増加不良や原因不明の発熱の精査で発見されることもあります。診断のために内視鏡検査をします。治療は、クローン病では栄養療法が第一選択です。エレンタールという成分栄養剤を内服します。潰瘍性大腸炎は、基本的に栄養療法は必要ありません。薬物治療は、どちらも5-ASA(アミノサリチル酸)製剤や免疫抑制剤、ステロイド全身投与、生物学的製剤などがあります。

現在の医療では根治は難しいですが、ここ数年で新しい薬剤がどんどん出てきており、昔と比較し、患者さんの生活の質は向上してきています。また、便検査では便中カルプロテクチンという検査が保険適応となり、IBDの診断補助や活動性評価に役立っています。胃腸炎だと思っても症状が長引く時は、まずは近くの小児科を受診してください。

 

こども医療ネットワーク会員

中村 陽(鹿児島大学病院小児科)