こども救急箱

vol.334 RSウイルス

―乳児は重症化リスク高―

南日本新聞掲載日付 2025/02/28

1918年は19%、2020年は0.18%―。皆さん、何の数字だと思いますか。答えは日本の乳児死亡率です。死亡率が100年間で100分の1になったのは、社会や医学の進歩による大きな成果ですが、昔は大勢の子どもが亡くなっていたことに改めて驚きます。「お七夜」「お宮参り」「お食い初め」などは、節目を生きて迎えられたことを祝う民俗行事と考えられています。

赤ちゃんの命を奪う大きな原因は感染症です。呼吸器感染症を起こす代表が「RSウイルス」です。RSとは「Respiratory(呼吸器の)」「Syncytial(合胞体)」を略したもの。正式名称は「ヒトオルソニューモウイルス」ですが、あまり使われません。油圧ショベルやドラグショベルなどの建設機械が、大きなまとまりで、フランス企業の商品名にちなむ「ユンボ」と呼ばれるようなものでしょうか。   

RSウイルスには、ほとんどの人が生涯に何度も感染します。ただ、生後6ヶ月未満で感染すると、無呼吸、細気管支炎、肺炎などを生じて重症化しやすく、医療が未発達の時代に大勢の乳児が亡くなりました。現在でも乳児にとって大変危険なウイルスです。

ここ数年流行した新型コロナウイルスは、高齢者が重症化しやすいとされてきました。ウイルスによって性質や振る舞いが違うのです。

一般的な感染症の予防策は「手洗い」「換気」「予防接種」「状況によりマスク装着」とされています。RSウイルスでは「家族は禁煙を心がける」「せきや鼻水の症状がある兄弟は赤ちゃんと距離を取る」「早産や持病でリスクが高い子は流行期、集団保育への参加は慎重にする」なども重要になります。赤ちゃんがいる家庭は、ぜひ留意してくださいね。

 

こども医療ネットワーク会員

山遠 剛(県民健康プラザ鹿屋医療センター小児科)

vol.333 ロタウイルス腸炎

―感染前にワクチン接種を―

南日本新聞掲載日付 2025/01/24

ロタウイルス腸炎は、「ロタウイルス」によって引き起こされる急性の腸炎です。初冬~早春にかけて流行し、ほとんどの人は5歳までに一度は感染します。国内では年間約80万人がかかっています。

感染力が強く、ウイルス粒子10~100個で感染します。集団感染は、保育園や幼稚園で起こることが多いですが、小中学校での発生も報告されています。

感染者の便を介した接触感染(経口感染)が主なので、排せつ物や吐しゃ物を処理する際は手袋などによる予防が必要です。排せつ物が乾燥してウイルスが空間に浮遊し、体内に侵入することがあるため、マスクを着用して防ぎましょう。

ロタウイルスはアルコールが効きにくく、流水とせっけんによる手洗いが大切です。家具やタオル、おもちゃなど環境面の消毒は、次亜塩素酸ナトリウムを使用します。

感染すると、1〜4日で腹痛、嘔吐、下痢の症状が出現します。感染者の約3分の1には、39度を超える発熱もみられます。

抗ウイルス薬などの特効薬はなく、治療は主に症状を和らげることに重点が置かれます。脱水症状や体力の低下を防ぐため、水分補給や安静、食事管理を行います。水分補給は経口補水液が勧められます。

口内乾燥、反応不良など複数の脱水症状がある場合は、入院して点滴を行うことがあります。食事は消化に良いものを選び、無理に食べさせないことが大事です。

通常は1~2週間で自然に治りますが、乳幼児、特に初めての感染は重症化しやすいとされます。その後の再感染時は軽症化していく傾向があります。

ロタウイルス腸炎の80%はワクチンで予防でき、国内では2011年から定期接種として導入されています。最初の感染前にワクチンを接種し、免疫をつけておくことが重要です。

 

こども医療ネットワーク会員

髙橋宜宏(鹿児島大学病院感染制御部)

vol.332 QT延長症候群  

―適切な管理が突然死防ぐ―

南日本新聞掲載日付 2024/12/27

子どもの突然死の70〜80%は心臓病が原因といわれています。心臓の形態に異常がある先天性心疾患や肥大型心筋症などのほか、形自体には異常のない不整脈などがあります。今回は、不整脈の一つである「QT延長」について詳しく説明します。

 心臓は自身から発せられる電気伝達で動いています。「QT」とは、その動きを捉える心電図の波形の一部分のことです。心臓が興奮して収縮するQ波から、戻るT波までの時間(QT時間)が長いのが「QT延長」です。基準よりは長いものの病的とは言えない人と、失神やけいれん、突然死の可能性がある「QT延長症候群」の人に分けられます。

 QT延長症候群は、心筋の細胞をイオンが出入りする経路(心筋イオンチャネル)の異常でQT時間が長くなる疾患です。多形性心室頻拍という危険な不整脈を引き起こすと、失神や突然死に至ります。生まれつきの先天性と、薬の副作用や体内の電解質異常による後天性があり、先天性は遺伝学的検査で診断することもあります。

 診断にはQT延長の程度が重要とされます。QT延長がみられても、症候群とは診断されない場合が多くあります。心電図上のQT延長だけ持つ人は、約1200人に1人ですが、実際に症状を起こす人は5千人〜1万人に1人と考えられています。現在は、学校検診でQT延長などの心電図異常を早期に診断して、症状の出現を可能な限り防止しようとしています。

 QT延長の疑いがあれば、専門の医療機関で、運動負荷心電図や24時間心電図、心臓超音波、血液検査を行い、治療方針を決定します。QT延長やQT延長症候群であっても適切に管理をすれば、症状を起こさず健康に日常生活を送れることがほとんどです。定期的な受診と、内服薬が始まったら飲み忘れに注意しましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

二宮由美子(国立病院機構鹿児島医療センター小児科)

 

vol.331 麻疹

―ワクチン接種で予防を―

南日本新聞掲載日付 2024/11/22

2015年、日本は世界保健機関(WHO)に「麻疹(はしか)排除状態」と認定されました。これは、日本固有の麻疹ウイルスによる感染がなくなったことを意味します。当時は日本の公衆衛生対策の大きな成果とされました。

しかし、排除状態となった今でも、日本から麻疹感染がなくなったわけではありません。特に新型コロナウイルスの流行が落ち着いた今、海外からの渡航者を介した「輸入感染」として再び注目されています。

麻疹の感染力は新型コロナウイルスの5~10倍とも言われ、免疫を持たない集団では、短期間で爆発的に流行する恐れがあります。

麻疹は感染から10~14日の潜伏期間を経て、発熱、鼻水、喉の痛み、せきなどが現れます。初期症状は風邪に似ていますが、口腔内に「コプリック斑」と呼ばれる白い斑点が出現することが特徴で、その後全身へ発疹が広がります。

多くの場合、数週間で回復しますが、肺炎や脳炎、中耳炎などの重い合併症を引き起こすこともあります。特に乳幼児や高齢者は注意が必要です。

麻疹の予防には、MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)が有効です。定期接種は1歳の第1期と就学前の第2期の2回となります。2回接種することでほぼ100%の免疫が得られるとされています。

ただ最近は、コロナ禍に接種機会を逃した子どもが増えたため、接種率の低下が問題となっています。鹿児島でも接種率は低く、22年度は第1期で92%(全国41位)、第2期で89%(全国45位)と国の目標である95%を大きく下回りました。

麻疹はワクチン接種で予防できる病気です。コロナ収束後の今だからこそ、接種状況を確認してみましょう。未接種や1回の接種で終わっている場合には、早めの接種を考えてもらえたらと思います。

 

こども医療ネットワーク会員

砂川雄海(国立病院機構鹿児島医療センター小児科)

vol.330 経口補水療法 

―脱水症でも吸収しやすく―

南日本新聞掲載日付 2024/10/25

経口補水療法は、経口補水液を口から摂取して行う治療です。子どもの軽度から中等度の脱水症に対して推奨されています。

口から飲んだ水分は、おなかの中でナトリウムや糖分と一緒に体内へ吸収されることが分かっています。この仕組みを利用したもので、点滴に比べて負担が少ない治療法とされます。

経口補水液は、スポーツ飲料と同じように主に水分、ナトリウム、糖分で作られていますが、スポーツ飲料よりも、おなかの中で吸収されやすい濃度に調製されているのが特徴です。

 脱水症は、体にとって重要な水分やナトリウム等のミネラルが失われた状態で、元気がなくなったり、顔面蒼白になったりします。ひどくなると意識障害やけいれんを起こすため、早めの対応が重要になります。

子どもが脱水症を引き起こす代表的な病気は、嘔吐下痢症です。嘔吐がみられる時でも、口に少し含む程度の水分であれば吐かずに飲める場合があります。少量の経口補水液を5分おきに、繰り返し摂取することをお勧めします。下痢の時でも飲んだ水分がそのまま下痢になって出ていくわけではないので、繰り返し経口補水液を摂取することが必要です。

 乳幼児は経口補水液の味に慣れておらず、飲んでくれないことがあります。どうしても摂取できない時は、代わりにスポーツ飲料を試してみましょう。それでも飲んでくれない場合は、ナトリウム濃度は低くなりますが、りんごジュースがいいかもしれません。水や麦茶よりはナトリウム濃度が高く、糖分も含んでいます。

経口補水療法がうまくいかない時は念のため、病院を受診して点滴が必要かどうかを判断してもらいましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

柳元孝介(ひだまりこどもクリニック院長)