こども救急箱

vol.329 生理的包茎 

―3歳までに35%に減少― 

南日本新聞掲載日付 2024/09/27

包茎とは、おちんちんの皮(包皮)がひっくり返らず、亀頭が露出できない状態です。幼少期にみられる生理的な包茎と、炎症などで包皮が硬くなる病的な包茎があります。

通常、新生児の包皮は亀頭と生理的に癒着しているため、むくことはできません。3、4歳ごろになると、包皮と亀頭との間に生理的なあか(恥垢)がたまるようになり、これによって癒着が剥がれ、やがて勃起を繰り返すことで包皮がむけるようになります。

この恥垢は、亀頭の周囲の包皮に透けて白い塊で見えることがありますが、生理的なあかですので無理に包皮をむいて除去する必要はありません。生理的な包茎の自然経過について、日本人を対象にした報告では、生後1〜3カ月では包皮を全くむくことができない子どもが88.5%に上るのに対して、3歳では35.0%まで減少するとされています。

病的な包茎の代表的なものとして、亀頭包皮炎、閉塞性乾燥性亀頭炎(BXO)、嵌頓包茎があります。

亀頭包皮炎は、包皮と亀頭の間に起きる細菌感染による炎症で、包皮が赤く腫れて膿が出ることがあります。抗生剤の外用薬や内服で治療しますが、繰り返す場合は、ステロイド外用薬を併用して、包皮を少しずつむく指導を行います。

BXOは、炎症で包皮の先端が白く硬くなります。この場合は、成長しても自然に包皮がむけてこないので、手術により硬くなった包皮を切除することをお勧めしています。

嵌頓包茎は、狭い包皮をむいたままにしていたことで、むくみにより元に戻せなくなる状態です。著しい包皮の腫れや痛みを伴います。手で元の状態に戻せない場合は、緊急手術が行われます。

これらの病的な包茎が疑われる場合は小児科や泌尿器科に相談してみてください。

 

こども医療ネットワーク会員

井手迫俊彦(済生会川内病院泌尿器科・小児泌尿器科)

vol.328 おたふくかぜ

―ワクチンで難聴予防を―

南日本新聞掲載日付 2024/08/23

「おたふくかぜ」「流行性耳下腺炎」「ムンプス」はどれも同じ病気です。耳下腺が腫れる特徴的な症状から、聞いたことがある人は多いでしょう。一方で、感染しても症状が出ない場合があり予防接種が任意であることから、注目度は高くないかもしれません。

おたふくかぜはムンプスウイルスによる感染症です。主な感染経路は唾液を介した飛沫や人と人の接触で、感染力は比較的強いです。

症状のない「不顕性感染」でも唾液中にウイルスを排出しており、感染源になります。おたふくかぜを根治する治療法はありません。解熱鎮痛剤や患部の冷却などの対症療法を行うことが多く、通常は1~2週間でよくなります。

おたふくかぜで、急に片方の耳の聴力が損なわれることがあります。この「ムンプス難聴」は重症が多く、 改善しにくいなどの特徴があり、発症年齢は15歳以下で、 中でも5~9歳で多いと報告されています。ただ大半が片側だけ発症するため、難聴が見落とされている可能性があります。

発生頻度は、1万5千人に1人といわれています。日本では1年間に百万~二百万人がおたふくかぜにかかるとされているので、 計算上は年間70~140人が発生していることになります。

治療法がない以上、予防が大切になります。流行阻止にはワクチン接種が欠かせません。おたふくかぜは難聴をはじめ脳炎、精巣炎など重篤な合併症を起こす可能性があります。ワクチンは、それらの予防につながります。世界保健機関(WHO)は、はしかや先天性風疹症候群の発症をワクチンでコントロールができた国に対し、おたふくかぜワクチンの普及も勧めています。

日本小児科学会は1歳で1回目、小学校入学前の5~6歳で2回目を打つよう推奨しています。ぜひ接種を考えてみてください。

 

こども医療ネットワーク理事長

岡本康裕(鹿児島大学病院小児科)

vol.327 食中毒

―予防3原則心がけて―

南日本新聞掲載日付 2024/07/26

食べることは、生きること。人を良くすると書いて「食」になります。私たちの周りには「食」にまつわる言葉がたくさんあり、生活と「食」を切り離すことは困難です。そんな「食」の安全を脅かす病気があります。食中毒です。

食中毒は、病原微生物や有害物質を含む飲食物を摂取した結果起こる健康被害です。一般的な症状として、吐き気、おう吐、腹痛、下痢が挙げられ、発熱を伴う場合もあります。

細菌やウイルス、自然毒、化学物質、寄生虫によって起こり、発症までの期間や症状もさまざまです。

症状が強ければ病院での治療が必要になることもありますが、原因が何であっても、食中毒を起こさないようにする予防がとても重要です。

食中毒の予防には心がけたい3原則があります。細菌やウイルスを「つけない」「ふやさない」「やっつける」です。

「つけない」ためには調理する人の手はもちろん、調理器具などの洗浄も欠かせません。最近は汚染されたエコバックを使い続け、菌が食品に付着してしまうこともあるようです。エコバックも定期的に洗うようにしましょう。

細菌は高温多湿の環境で活発に増殖するので、「ふやさない」ためには低温で保存することが重要です。テイクアウトやデリバリーによる食中毒も増加傾向のため、適切な温度管理と衛生意識の徹底が大切です。

ほとんどの細菌やウイルスは、熱を加えることで「やっつける」ことができます。しっかり加熱調理するのはもちろんですが、肉や魚、卵などを使った後の調理器具も洗剤でよく洗ってから、熱湯をかけると病原微生物を死滅させることができます。

食中毒の予防に努め、楽しく安全な食生活を送りましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

塩川直宏(種子島医療センター小児科) 

vol.326 咽頭結膜熱

―プールで感染ほぼなし―

南日本新聞掲載日付 2024/06/28

今回はアデノウイルス感染症の一つである咽頭結膜熱がテーマです。38度以上の高熱や喉の痛み、結膜炎といった症状を引き起こします。「プール熱」と呼ばれることもあり、そちらの名前で聞き覚えがあるかもしれません。

「地域でプール熱がはやっているので、学校のプールを休ませるべきですよね」「高い熱が出てプール熱と診断されました。プールに一切行ってないのに、おかしくないですか」

 こんな質問を受けたことがありますが、少し誤解があるようです。昔は、塩素濃度が低いプールで水中のウイルスが目の結膜を介して感染したり、汚染された共用タオルで目をこすって感染したりすることがありました。「プールを場とした集団感染」を起こしたので、「プール熱」の別名がついたのです。

今では、適切な塩素消毒やタオルの個別使用により、集団感染の報告はめったにありません。なのに名前だけ「プール」が残ってしまいました。ぬれタオルならぬ、ぬれぎぬと言えるかもしれませんね。

先日も人気アーティストの映像作品が議論を呼びましたが、現代の文明社会で偏見や差別は許されません。1918年に世界的大流行を起こしたインフルエンザ「スペイン風邪」をはじめ、15世紀にヨーロッパで流行した梅毒「ナポリ病」、同じく梅毒「フランス病」、エムポックスウイルス感染症「サル痘」など、固有名詞が冠された病名は数多くありますが、世界保健機関(WHO)は2015年からヒトの新興感染症に地名や動物の名称を使用しないことを推奨しています。

アデノウイルスは感染力が強く、家庭内での感染拡大に注意が必要です。対策はまず手洗いが大切です。状況によって、よく触る場所の消毒なども加えます。学校や集団保育施設における咽頭結膜熱の出席停止期間は「主要症状が消退した後2日を経過するまで」ですが、診断した医師の指示に従いましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

山遠 剛(県民健康プラザ鹿屋医療センター小児科)

vol.325 手足口病

―家庭内感染にも注意―

南日本新聞掲載日付 2024/05/31

「手足口病」が増えてきました。新型コロナウイルス禍前の国内では、毎年6月半ばから流行が始まっていましたが、今年は約1ヶ月半早い5月初旬から流行期に入りました。

原因は、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスによる感染です。いずれのウイルスもA型、B型などのいくつかの種類に細分化されます。手足口病にかかった経験がある人でも、別のウイルス型に感染して再発症することがありますので、かかったことのある人もない人も同じように対策しましょう。

ウイルスは唾液や便を介した接触や飛沫で感染します。ただ体液や飛沫だけでなく、床や壁などの表面にもウイルスが感染力を保った状態で付着していることがあるため、環境にも注意が必要です。

患者さんの9割は5歳以下の子どもですが、大人もかかります。症状がない場合も多く、鼻かぜや胃腸炎で発症することもあります。無症状の大人が家庭にウイルスを持ち込む可能性もありますので、流行期には学校や保育施設だけでなく、家庭内感染にも気を付けてほしいと思います。

残念ながら予防接種はないため手洗い、うがいといった一般的な感染症対策が重要になります。アルコール消毒が効かないウイルスですので、せっけんによる流水手洗いをしっかり行ってください。

症状は口内、手のひら、足の甲や裏に2、3ミリの水疱、赤い発疹を認めます。発熱は全員にみられるわけではなく、3分の1程度といわれています。

新型コロナやRSウイルスのように、病院の検査でウイルスの特定ができないため、皮膚や粘膜の症状をみて診断します。一般的な風邪と同じく自然に治りますので、発熱やせきなどの症状に対して解熱薬や、せきやたんを鎮める薬を使いながら、体調の改善を図ります。

 

こども医療ネットワーク会員

高橋宜宏(鹿児島大学医歯学総合研究科感染症専門医養成講座)