こども救急箱

vol.313 学校検尿 

―病気の早期発見に活用―

南日本新聞掲載日付 2023/05/26

腎臓の病気は、基本的に初期は無症状です。腎臓の働きがある程度悪くなると、尿量が少なくなる、浮腫(むくみ)がみられる、高血圧になるといった症状がでてきます。症状が出て異常に気づいた時には腎臓の働きを回復させることが難しく、透析が必要になることもあります。

これらの症状が出る前に早期に発見する必要があります。1973年に学校保健法(現在の学校保健安全法)が改正され、子どもの健康診断に尿検査が追加されました。74年に学校検尿が始まり、現在は日本のほとんどの自治体で小学1年生から中学3年生を対象に年1回実施されています。

学校検尿は腎臓の病気だけでなく、生まれつきの尿路(腎臓で尿が作られてから、尿が出るまでの経路)の奇形や糖尿病の発見にも役立ちます。学校検尿で異常を発見できると、早期に治療を開始できます。例えば、IgA腎症という病気は、学校検尿で見つかる腎臓の病気のうち最も頻度が高いのですが、知らずに放置すると腎不全になります。学校検尿が始まってから腎不全で透析が必要となる子どもの割合は3分の1に減少しました。

学校検尿で異常を指摘された場合は、決められた医療機関を受診して精密検査を受けます。学校検尿で異常が見つかっても、病気ではないことも多々ありますので、いたずらに恐れず受診しましょう。せっかく学校検尿を受けたのに、病院を受診しないまま過ごしてしまう人も時々みられ、病気が進行してから診断されることもあります。

忙しい朝に、尿を採取して学校に持っていくのはとても面倒ですが、得られるメリットはとても大きいです。学校検尿を上手に活用して、子どもの健康を守りましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

稲葉 泰洋(鹿児島大学病院小児科)

vol.312 水の事故

―万が一に備えて対策を―

南日本新聞掲載日付 2023/04/28

毎年梅雨から夏にかけて水に関わる事故の報道が多く、胸が痛みます。

水の事故で最も多いのは海(49%)、次いで河川(34%)と続きますが、中学生以下の子どもは河川(58%)、湖沼地(19%)、海(16%)です (政府広報オンライン2021年統計)。海と違って河川は比較的住宅地に近いため子どもだけで遊びに行ける場所が多く、大人の目が届かない場所で事故に遭遇してしまいます。

悲しい事故を防ぐポイントについて述べたいと思います。

一つ目は、子どもだけで川や湖などに行かせないことです。中高校生が一緒なら大丈夫でしょうか。親は自分の子どもを最優先で見ますが、中高校生では小さい子に付きっきりで面倒を見ることは難しいでしょう。

二つ目は、大人が責任を持って子どもを見守ることです。残念ながら大人であれば誰でも大丈夫とは言い切れません。飲酒したりスマホをいじったりして、子どもから目を離してばかりの大人は適任ではありません。

また、子どもにもライフジャケットを着用させるなど万が一に備えた安全対策を講じておくことも有効です。よく言われている「浮いて待て」は大変有効な手段ですが、不意に深みにはまったり、不安を感じたりしている子ども(大人も含めて)はパニックになったりしてしまうので、とても難しいことだと思います。

三つ目は、危険を予測して、近づかない、無理しないです。

大人も含めて水の事故は起きます。事故を未然に防ぐには事前学習や知識が必要です。遊泳禁止場所、地元の人が避ける場所には必ず理由があります。離岸流や急に深くなっている地形は危険な場所です。安全に留意して楽しい夏を過ごしましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

久保田 知洋(鹿児島県立薩南病院)

vol.311 食物アレルギー

―ナッツ 初めは注意を―

南日本新聞掲載日付 2023/03/31

ナッツとは木の実のことを指し、クルミやカシューナッツ、アーモンドなどがあります。一方ピーナツ(落花生)はマメ科の植物で、土の中で育つのでナッツとは異なります。ナッツアレルギーでもピーナツを食べられることがあり、その逆もしかりです。

また、1種類のナッツにアレルギーがあるからといって、全てのナッツがアレルギーとは限りません。ですが、クルミアレルギーがあると同じクルミ科に属するペカンナッツ、カシューナッツアレルギーがあると同じウルシ科に属するピスタチオにもアレルギーを起こすことがあるので注意が必要です。

今まで食物アレルギーの原因は鶏卵、牛乳、小麦の順に多かったですが、最近の全国調査では、ナッツが小麦を抜いて第3位に浮上し、中でもクルミがずばぬけています。クルミによるアレルギー症状はアナフィラキシーショックなどの重篤な症状が多いため、加工食品のアレルギー表示が義務付けられている食材は現在のエビ、カニ、小麦、そば、卵、乳、落花生の7品目からクルミを追加した8品目となる予定です。

クルミアレルギーが増えている原因は明らかではありません。美容・健康意識の高まり、輸入量の増加を受け、食べる機会が増えたことが原因の一つと言われています。クルミは食用油、ドレッシング、パン、カレー、マカロン、杏仁豆腐などさまざまな食品に使用されるようになりました。

ナッツアレルギーは、アトピー性皮膚炎がある人のほか、すでに鶏卵、牛乳、小麦などの食物アレルギーのある人に起こりやすい傾向があります。初めて食べさせるときには小児科医に相談するか、粉末やペーストなど少量から食べさせてみましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

吉川 英樹(霧島市医師会医療センター小児科)

vol.310 ウイルス性心筋炎

―風邪から急速悪化も―

南日本新聞掲載日付 2023/02/24

人気漫画「ドラゴンボール」で、主人公・孫悟空がウイルス性心筋炎で命を落とすエピソードが出てくるのを知っていますか?ウイルス性心筋炎は、ウイルス感染を原因として起こる一般的な風邪がきっかけとなります。

風邪の場合、ウイルスが増殖する場所は鼻、喉、気管といった気道が中心で、症状は鼻汁やせきなどです。何らかの原因でウイルスが心臓の細胞へ侵入して増殖し炎症を起こすのが心筋炎で、心筋細胞がダメージを受けて最悪の場合は壊死してしまうことがあります。

ウイルスがどのように心臓の細胞へ侵入するのか正確には分かっていませんが、感染後5~7日で心筋細胞のダメージが確認され10~14日程度で修復過程に入っていくことが知られています。ダメージを受けた心臓は体全体へ血液を送ることが難しくなるため、さまざまな症状を呈します。

はじめは風邪と同じ症状でも、嘔吐、腹痛などの消化器症状やけいれんなど次々に変化することがあるため、慣れた小児科医でも心筋炎を初期に診断することはとても難しいです。

血液検査、心電図、心臓超音波検査などを駆使して診断しても急速に病状が悪化することがあり、速やかにECMO (エクモ) と呼ばれる体外循環装置を導入しなければならないケースがまれにあります。孫悟空のように命を落とすこともあり得ない話ではありません。

 近年、若年者で新型コロナウイルス感染やワクチン接種の後に心筋炎を発症することがあると報告されています。ワクチン後の心筋炎は軽症がほとんどで、頻度が極めて低いことも分かっており、接種により感染・重症化予防を図るメリットの方が大きいとして、日本循環器学会では基本的にワクチンを推奨しています。日頃からかかりつけの医師とよく相談し、万全の体制で備えておくことが重要と考えます。

 

こども医療ネットワーク

櫨木 大佑(鹿児島市立病院小児科)

vol.309 hMPV

―10歳までにほぼ感染―

南日本新聞掲載日付 2023/01/27

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)というウイルスがあります。聞き慣れない名前ですが、日本では10歳までにほぼ100%が感染するありふれた風邪のウイルスです。皆さんもきっとかかったことがあるはずですが、多くは軽症で自然に治ってしまうので、これまでの風邪のどれがヒトメタニューモウイルス感染症だったのか分からないまま大人になります。

鼻水やせき、のどの痛み、発熱、体のだるさなど一般的な風邪の症状に加え、幼児では息をする際にゼーゼー、ヒューヒューといったぜんそくのような症状を起こしやすかったり、血液の中の酸素の量が少なくなったりします。時には重症になり入院が必要になることがあります。

似たような症状を起こす有名なウイルスにRSウイルスがあります。RSウイルスが1歳未満で流行することが多いのに比べ、ヒトメタニューモウイルスは1~3歳で流行することが多く年齢が高めです。鼻の中を綿棒でこすって判定する検査がありますが、風邪症状などがある子ども全員に行うわけではありません。肺炎を起こしている場合や入院を考える重症な風邪の時に、原因を探すために検査します。

ヒトメタニューモウイルス感染症に特効薬はなく、自己免疫力で治す病気で治す病気です。多くは軽症で自宅療養になることがほとんどです。発熱やせきがきつくない時に食事や水分を取らせ、鼻水が多い場合はできるだけ取ってゆっくり寝かせてあげましょう。

高熱で寝つきが悪い場合は解熱剤を使うのもよいです。水分が取れずおしっこの量が少なかったり、呼吸が苦しそうで顔色が悪かったりする際は、病院を受診して追加の治療や入院が必要でないか確認してもらいましょう。

 

こども医療ネットワーク会員

今給黎 亮(いまきいれ総合病院小児科)